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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
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……8月2日(火) 17:30 幹侍郎部屋

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

 呼吸器系がないなら呼吸を調べることはできないけど、循環器系があるなら、脈は調べられるってことか? 脈はあるのか?

 いや電池が切れてるなら脈拍は当然無いのか。

「……まぁ電池切れが分かってるなら、幹侍郎ちゃんが細胞でできてるかどうかなんてどうでも良いよね。その小さな部分にごとに電池があって、それを交換しないといけないってのが本題であって……。あ、電池ってことはもしかして、交換してもまた切れるってこと?」

「そうだね。交換する時に充電池に変更するにしても、結局は全部に対する充電経路を作らなきゃいけないから大手術になる」

「不可能ではない?」

「実行にかかる時間を計算に入れないなら、もちろんできるよ。何十年かかるかわからないけど」

「それなら、ゴジはやっちゃうかもしれないなぁ……」

「護治郎くんは優しいから……」

 これは窓ちゃん。窓ちゃんは私達の話をほとんど聞いてるだけだ。

 でも、それって優しいのかな?

 なんかもうちょっと違う言葉が似合う気がするよ。執念深いとか。

「ううん。何十年もかけると、こんどは幹侍郎ちゃんの身体が腐食したり変性したりしちゃうから、けっきょく見込みはない」

「腐食!? そうか、それもあるね……」

 幹侍郎ちゃんの身体が腐食する前に電池交換、叶うなら充電式にする手術をする。目標の電池は百億以上。そして電池交換後に改めて動かす時は一斉に通電させないといけない。これは、私やゴジには無理だ。

 腐食も変性も稼働中か非稼働かは関係ない問題ではあるんだけど、稼働中の動作不良の問題は動かないものを動かすようにする話とはまた別の時に考えれば良い問題だ。いやまぁ案があるなら非稼働中に対策しておくことに越したことはないけど、いまは非稼働中でも対策不能って話をしてるんだから気が早すぎる。

 百億の電池を交換。

 その目のくらむような数にできるだけ素早く追いつく方法が可能性があるとしたら、作業を自動化して、その作業ラインをだんだん増やしていくことだろう。工業的な手段と言えば良いのか、かなり計画的な作業工程の設計が必要になるし、なによりも自動化というのが難しいんじゃないかと思う。少なくとも私にはそんな事はできない。私にできるのは妄想することでしかない。

 可能性があるとしたら……。

「……ハルカちゃん、なんとかできないの?」

 哀れっぽい声でハルカちゃんに聞いてみる。

 哀れっぽいというか、なにできない身の上なのだから単純に哀れな人間の声だという方が正確だ。

 窓ちゃんは私の横で目を伏せている。握りしめた拳がわなわなと震えている。窓ちゃんとしても、窓ちゃんなりの無力感の表現なんだろう。

「まぁ、そうなるよね……」

 そう言って、ハルカちゃんは声を落とす。

「でも、私の能力では、あの幹侍郎ちゃんを身体を目覚めさせることは約束できない」

 ……やっぱり。

 ハルカちゃんとしてはめずらしくずいぶん婉曲な表現だけど、やっぱりハルカちゃんとしてもデリケートな話題なんだろう。

 やっぱり幹侍郎ちゃんは無理か……。

 幹侍郎ちゃんが二度と目覚めない。

 そう考えると私も泣き出してしまいそうだけど、私は耐えないと。

 ゴジか私かなら、感情的になりすぎずに論理的な選択肢を把握しておくのはやっぱり私の役目だと思う。ゴジがこの状況で感情的にならずに居ることは無理だろう。去年は実の親を亡くし、今年は自分が産み出した子を亡くした。

 ゴジでなくても耐えられないだろうに、ゴジは人一倍そういうのに弱い。ひたすら可哀想だ。


   *   *   *


「でも、可能性があるとしたら……」

「えっ! なにかできる可能性があるの!?」

「うん。これ(・・)で、幹侍郎ちゃんの物理的スナップショットを作成したから、そこから複製を作り出すことだね」

 『これ(・・)』といってハルカちゃんが指し示したのは、例のふしぎ道具と化した銀沙の収穫機。知らないで見るとやたら輝いている掃除ロッカーぐらいにしか見えない、ピカピカした金属製の箱。

「も……もうちょっと詳しく聞かせてくれる?」

「ちょっと待って、護治郎くんを呼んでくるから!」

 私が質問をしようとしたところで窓ちゃんがそれを制止して、寝台の梯子に駆け寄っていった。

 私は目の前のことに夢中になってしまうけど、窓ちゃんはゴジのことを考えている。

 スカートのまま裾を乱しもせず滑るように梯子を駆け上る後ろ姿を見て、私は息を抜いた。

 意外と息を詰めて話を聞いていたんだということにいま気がついた。

 やっと、息を抜けるぐらいに明るい話が聞けたということを改めて実感する。

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