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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第一章 宙の光に星は無し
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……6月20日(月) 18:30

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第一章 宙の光に星は無し


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 気まずいのをなんとなくごまかしながらそんな事を言い残して、電動スクーターを充電スタンドにしっかりマウントしてから家を出た。


 ゴジの家、歩いたって遠くはないのだ。

 なにしろ隣の家である。

 ゴジ――神指(こうざし)護治郎(ごじろう)――の家は折瀬村(おりせむら)の村外れの小高い丘の上、ちょっと雰囲気のある洋館だ。

 という言い方をすると、なんかちょっとイメージが違うんだよな。

 まず第一にゴジの家、手入れができてないせいで荒れ果てて、ちっとも良い雰囲気じゃない。とはいえこれは仕方ない。不慮の事故でご両親が亡くなってしまい、いまではゴジが未成年の一人暮らしだ。そりゃあ家ぐらい荒れる。本当は家だけじゃなくてゴジの精神もかなり荒んでしまって、事故直後から半年学校にも顔を出さないで引きこもりをしていたんだけど、半年ぐらい前にはそこからは復帰していまでは学校にも出席するし、普通に話もできる。でも家は荒れたままなんだけど、これは仕方ないよね。

 もう片方、村外れの小高い丘の方。これはそう表現するなら、文字通りの意味では間違いではないんだけど、思い浮かぶのは平らな村とその町外れにある小高い丘だと思うんだけどゴジの家はそういう場所ではない。

 まず折瀬村が平らじゃない。折瀬村というのは、私が住んでるこの村。

 山合いの川筋を扇状に取り囲みながら山肌に張り付くように形成された村で、そもそも平らじゃない。極端に言えばフィルタ式のコーヒードリッパーを真っ二つにしたような形をしている。その真っ二つにされたコーヒードリッパーの上側のフチに当たる部分を綺麗に舗装された車用のすれ違い二車線道路が走っていて、その道は『大回り』と地元では呼ばれている。

 私の家はその大回り沿いなので基本的に高い方の端っこ、更には大回の道沿いとしてはこの村で最初の家という端っこの端っこ。ただまぁ畑とか道具小屋とか人家以外の村の構成要素はもちろんあって、そういうのは私の家の外にもある。

 ゴジの家は私の家の更に上、大回りから見ても外側に当たる。大回りより外側に建っている家は少ないながらいくつかあるんだけど、それらはドリッパーに指したフィルタの上みたいなそれなりに平たい場所に数件固まっている。ゴジの家はそれらからも離れているし、さらには少し落差が大きくて張り出したようになったところに建っている。私の家の前から道路を渡って尾根筋に登っていくハイキングコースがあるんだけど、その途中みたいな場所と言えばいいのか。ハイキングコースは一時間ぐらいかかるけど、ゴジの家は三分のところなのですぐそこではあるんだけど。

 だから、ゴジの家は村外れでもあるし小高い丘の上でもあるんだけど、平面的な村の外れにちょっと出っ張った場所があるという位置関係ではなくて、全体的に坂がちな村の一番上の更に上という高低差の印象が強い位置関係ではある。


 私がゴジの様子を見に行くのは、ご両親が亡くなって以来、学校にも顔を出さなくなっていた時期からの習慣だ。それより前には普通にゴジの家に遊びにだって行っていたんだけど、学校で顔を合わせないと遊ぶ約束もなにもないので最近まったく会わないみたいになっていたところ、様子を見に行ってやれとお母さんに言われてから週に二回ぐらいずっとやっている。

 最初の頃は家に行っても出てきてはくれず、気配はあっても顔も合わせられずに冷蔵庫の中とか洗濯物とかの様子で生存確認をしていた感じだったんだけど、ここ半年ぐらいはちゃんと顔を合わせられるし、ゴジも学校に出席するようになった。今となっては最初の頃ほど切迫した理由でゴジの家に顔を出してるわけではなくなったけど、あの広い家に一人で住んでいるゴジの様子を誰かが見に行った方がいいのは間違いないし、その役目は同い年でクラスメイトで遊び友達で幼馴染の私が適役っていうのは間違いないはずだ。


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