8月2日(火) 17:30 幹侍郎部屋
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
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8月2日(火)
17:30
幹侍郎部屋
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フロアを降りてハルカちゃんの前に行く。
見慣れた地下室。
広い部屋だけど慣れた距離だし、歩いて行くのも苦にはならない。
さっき見かけた掃除ロッカーだけど、近づいて行くうちに疑問が湧いてきた。あれが置いてあったのってあの場所だったっけ? 幹侍郎ちゃんから見たら筆箱ぐらいの大きさのものなわけで、彼が活動する場所の床面になんとなく置いてあるにはいくらか邪魔にもなるだろう。
その収穫機の見かけも、表面が妙にピカピカしていて、前に見たときとは違うものになっているような気がする。どうやら扉もないみたいだ。
なんだあれ? もしかして収穫機ではない?
私たちが近づく間、ハルカちゃんはその正体不明の金属の箱に手を置いて、なにやら考え込んでいる雰囲気である。
バスケのコートより広い幹侍郎ちゃんの部屋のフロアを数分掛けて横切り、ようやく到着。
「来たね」
「来たよ。でも……それ、なに?」
「佐々也ちゃん、そんなことより幹侍郎ちゃんの話を先に聞こう?」
「あ……うん。そうだった」
なにかが気になると、他のことがそっちのけになってしまうのが私の悪いところだ。それでも気になるものは気になるんだから仕方ないということでいつもは好奇心を優先しがちなんだけど、流石にいまはそういう時じゃないことはわかる。
「その……」
「うん、幹侍郎ちゃんね。簡単に言うと電池切れ」
「……電池?」
なんか、だいぶ日常的な単語が出てきた。
そういえばつい最近、私も充電切れで大失敗したから、なんとなく身につまされる。
でも、日常的に聞こえようがなんだろうが洒落にならないんだ。
ちゃんと考えればこれは重要な話だ。
要は生物の定義のうちのひとつ、エネルギー代謝の話なのである。これまで、本当は視界の隅に入ってきてはいたけど、ゴジの能力の不思議さに預けて真面目に考えていなかった話。
幹侍郎ちゃんのエネルギー、電池だったのか……。
電池切れの兆候とかはなかったのか……。最後の通話の時、話が終わったらすぐ寝ちゃったという事があったけど、ああいうのが兆候だったのかもしれない……。
「電池切れって? つまり充電したら良いってこと?」
「充電池じゃないみたいだから、それは無理」
「じゃあ電池交換?」
「……それはたぶん難しいと思う」
ハルカちゃんの目がどことなく泳いでいる。なにか隠してるのか?
「どうして?」
「電池の数が多すぎるのと、仮に替えたとしても全部同期して稼働させないといけないから、技術的に難しいんだ」
「難しいってことなら……、やればできるってこと?」
はあ、というため息をつきそうなハルカちゃんの顔。
私の言葉は、言われたくないことだったんだろう。
でも聞かないでも居られない。
「護治郎くんにも言われたし、可能性としてはそうなんだけど……。ただ、電池の数も百億を超えるみたいだから、それが現実的かというと……」
「百億ぅ!?」
自分のものとは思えないような素っ頓狂な声が出てしまった。
「そう。ざっと見積もって百億以上」
「なんでそんなに? っていうか、なんでそんなこと知ってるの?」
「あー、これがね。調べてたんだ」
ハルカちゃんはさっきの箱を指し示す。
「それって、銀沙の収穫機じゃなかったっけ?」
「元はね。今のこれは機能を追加したバージョンツー」
「機能を追加?」
「それはまた追々」
追々って……。




