……8月2日(火) 16:00 車中・迷想:やちよの知見〜16:15 車中・迷想:地球の知性
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
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今のイルカは地球の生態系含まれているとは考えにくいので、生態系基準ではなくて地球上で生まれた生命、とかそういういうことなのかもしれない。だとしても、ここまではまぁ一貫した主張であるとは言える。
「それって、やちよちゃんの知識なの? それとも地球の方?」
「普段は意識しないからわからないな……。でも、地球の知識と矛盾する時はなんとなく分かるから、地球の知識と矛盾してるってことはないよ」
「変なルールがあるんだなぁ」
「そんなこと言っても、地球の知ってることをぜんぶ私が知ってるとしたら、私は生きていけないよ」
「……それはなんとなく分かるよ」
やちよちゃんの発言はだいぶ重い話のような気もするけど、今はそれに興味を持っている場合ではない
具体的な細かい話なんかはまた今度、機会があったら聞いてみよう。やちよちゃんはあんまり説明が上手くないから、聞き出すのには苦労があるかもしれないけど。
ここまでのところ、地球、つまりガイアさんは確かに個人の個性みたいな細かいことにはあんまり興味がなさそうだ。だとすると私が屋上に出たかどうかみたいな事も細かいことになるんじゃないかと思うんだけど……。まぁ、地球がなにを考えてるかなんてわからないから、もしかしたら個人の居場所というのは特になにかの理由で地球にとっては重要な情報なのかもしれない。
いや? でも個人の居場所が重要情報だとすると、幹侍郎ちゃんのことも地球は知ってて良さそうなもんじゃないかという気がしてくるな。ところが、やちよちゃんは幹侍郎ちゃんの居場所どころか幹侍郎ちゃんの存在を知ってる様子はなかった。つまり、やちよちゃんの判定方法だと幹侍郎ちゃんはハルカちゃんと同様に、生きては居ない?
あ、いや、個人の居場所というより、私の居所が例外的に重要情報って可能性もあるのか。やちよちゃんの私に対する執着を考えてみても、その可能性はある。なにしろ私はTOXが来る目印みたいな感じらしいから。
私がそういう意味で例外なら、やちよちゃんが幹侍郎ちゃんのことを知らないことが幹侍郎ちゃんじゃなくて私がTOXの焦点、コンプレキシティのなにか、ということの傍証にもなる。
これは全然関係ない筋からの推測だもんな。TOXが私を狙っているという未確認情報の確からしさは高くなったと言えるかもしれない。
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8月2日(火)
16:15
車中・迷想
地球の知性
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「どうした、佐々也? あんたまた考え込んでるの?」
「ああ、いや、うん。なんで地球が私のことを知ってるのかってね」
「は?」
「いいんだ、この話は長くなるから忘れて……あっ!」
「どうしたの?」
「ねぇハルカちゃん、さっきのハルカちゃんの定義だと、地球って知性なの?」
「……やちよちゃんからの申告があるだけで、私からは地球の知性を観測できないからねぇ……。なんとも言えないよ」
しれーっとハルカちゃんが答えてくれる。さっきまでとは違って、ぜんぜん興味なさそうだ。ちょっとムッとしてしまった。
「ダイモーンの生命観は、まったく当てにならないよ! もう!」
「そりゃそう。ダイモーンの生命観が生まれた場所には地球が居なくて、ダイモーンが居て、TOXが居ない世界。そういうところで育まれた概念なんだから、ここでは全てにおいて前提が違うよ。私がここで話したことは、別の視点を用意したことだとは言えるけど、即座に役立つかと言えば無理だよ。この世界で生まれて育ってきた概念の方がより多くのことの説明が付きやすくて当然じゃないかと思う」
ハルカちゃんの言葉はサラッとしているけど、意外と難しいこと言っているので少し考えて消化する。
お互いに関連が低いところで生まれた言葉は、ちょっと持ち込んでも正確ではないかもしれないということなのだろう。両方日本語のようで、私が生命について語ってる言葉と、ハルカちゃんが生命について表している言葉は、外国語より遠い関係かもしれないんだな。
だとしたら私は私の言葉で考えるしかない。
「……まぁ、そう言われたらそんな気もするけど」
「逆に幹侍郎ちゃんみたいな新現象に対しては、新しい視点を用意するのにいろんな観点がある方が有利かもしれないよ?」
「そうだといいよね、ほんとに」




