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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
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……8月2日(火) 16:00 車中・迷想:やちよの知見

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。


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 同じようにハルカちゃんに充分な知性があることは私の目には明らかで、自動販売機とハルカちゃんの間には明白な違いがあるんだけど、他人を説得する目的で上手く言い表すのが難しい。最後には『見れば判る』になってしまうからだ。

 私が迷っていると、ユカちゃんが答えてくれた。

「自動販売機だって喋りはするけど、あれはそういう機械だから」

「そんなこと、もちろん知ってるよ!」

「ハルカと自動販売機じゃ色々と違うでしょ? その……、形とか」

「違うのは形ぐらいだし……」

 そう言ってやちよちゃんは、胡乱なものを見る目でハルカちゃんを見る。

 流石にこれは、私としてもハルカちゃんのために黙ってるわけにはいかない。

「いや、もっと違うよ? ハルカちゃんは自分で考えて、自分の足で歩くし、ジュースも売ってない」

「ジュース? いや、もっと色々違うところがあるでしょ!?」

 私の必死のフォローに、ユカちゃんがツッコミを入れてくる。

 あまりにおぼつかない私の説明に、さすがに黙ってられなくなったみたい。

「そりゃあ私だってそう思うけど、急に言われても出てこないよ」

「ハルカには知恵があるから会話が成り立つけど、自動販売機は無理でしょ?」

「それは機械の性能の問題で、決定的な差ではないと思うんだ。会話ができるぐらい賢いおしゃべりボットも居るし、人間にも会話がぞっちゃんみたいに会話が上手いのと私みたいにそうでもないのが居るんだし」

 ユカちゃんの常識的な答えに、何故か私が反論してしまう。

「会話が上手いか下手かなんてどうでもいいよ。私は佐々也ちゃんとお喋りするの楽しいよ」

 これはやちよちゃん。

 慰めてくれてるのかな?

 そういう意味で言ったんじゃないんだけど。

 やちよちゃんの能力といえば地球と意思疎通できる事らしいんだけど、実際に向き合って喋ってる時、やちよちゃんの普通でない部分は突飛なことを知ってたり分かったりする事として現れて来る。

 正確にはなにが分かるんだろう?

 生命のある無しは見て分かるけど、会話の上手下手は一瞥ではわからない。

 そういえば、私が屋上に行けばわかるのに、ハルカちゃんが屋上に上がってくるのは分からなかった。

「いやハルカと自動販売機なら、どっちが上手く喋りそうかは分かるでしょ!」

 これはたぶん、分かるも分からないもどっちも正しい。

 同じものを見ていないから、違うように見えているんだろう。

「ああ、いや、ユカちゃん。やちよちゃんは能力(・・)のおかげで私達とは違うものが見えているかもしれないんだ」

「能力? どんな?」

「どういう能力か私はよく知らないんだけど、コンプレキシティみたいなものが見えるらしいとか、TOXが居るかどうかがわかるらしいとか、地球の意思が分かるらしいとか、そんな感じ」

「知らないなら、無理に佐々也が答えなくてもいい。やちよちゃん、どういう能力なの?」

「私も自分の能力が正確にはどういうものなのかは知らないなぁ……。たぶん、地球が知っていることを私も知ることができるんだと思うけど、なんでもじゃないんだ」

「そっか……」

 これはつまり、ハルカちゃんと自動販売機の違いを地球は知らないということだ。

 そりゃそうだろう。たしかに地球はその分類に関心が無さそうだ。

 でも逆に、地球は私が屋上に行くタイミング、というかおそらく私の現在位置を知ってるということなのか?

 自動販売機と私の差……。

 とりあえずぱっと思いつくこととして、つまり地球の生態系に含まれてるかどうかの差、みたいな感じだろうか? 私は間違いなく地球の生態系に含まれているはずだ。

 いちおう確認してみる。

「やちよちゃん、TOXは生命?」

「違うね」

「じゃあイルカは生命?」

「そりゃそうでしょ」

 今のイルカは地球の生態系含まれているとは考えにくいので、生態系基準ではなくて地球上で生まれた生命、とかそういういうことなのかもしれない。だとしても、ここまではまぁ一貫した主張であるとは言える。

「それって、やちよちゃんの知識なの? それとも地球の方?」


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