……6月21日(火) 18:10
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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「子供、作ろうと思えば作れるよ?」
「えっ! そうなの! 有性生殖じゃないのでは!?」
結局食いついてしまった。
「有機生命みたいな生殖じゃなくて、私と神指くんの両方の個性を継承した知性を生み出してから、その知性を定着させるヒュレーを作り出していく感じになるけど……」
あれ、これはなんか想像と違う感じか?
知性を作る……。特にその行為を介在させない感じだなこれ。
「……よく分からないけど、それはゴジと天宮さんの子供ということになるの? 知性っていうならゴジとは性別が違う私でも天宮さんとの子供を作ることができるように聞こえるし、なんならもっとたくさん親が居ても大丈夫なようにも聞こえるけど……」
「両方ともその通り、できるよ」
「できるの!?」
「この地球でやれと言われても無理だけどね。知性を生み出すためには教育とか社会体制とかの莫大なインフラが必要だから簡単ではないことなの」
「そうなんだ……」
ちょっと残念な気もするけど、当然のような気もする。
「知性はできないけど、新しいヒュレーの方はできるってことか?」
「それはできるよ。実際、私の体はここに到着してから生えてきた……、つまり出来上がったものだし」
「できるのか……」
ゴジが感心したようにそんなことを呟いて黙ってしまった。
「だから私たちの種族で子供を作ると呼んでるのは、知性を生み出す方のことの方になるわけ」
「はえー、なるほどねぇ。でも、簡単でないってことは、条件が揃えば私もそれで子供が作れるのかなぁ」
「実際に有機生命の地球人と子供を作るとなったら、色々と手順はあるんだけど」
「色々な手順……」
意味深。
たぶん誤解だろうけど。
「その……、天宮が言う知性っていうソフトウェアみたいなものは、要するに心のこと?」
ゴジが天宮さんに質問。生殖からは離れるようだ。
「心というか知性なんだけど、でも知性が稼働していると心があるように見えるよね」
「それは、その知性っていうソフトウェアが心だってことなんじゃないのか?」
「心という言葉をこの場では無定義で使っているから、あとは受け取り様の問題でしかないかな。心と知性はお互いに別の物だから、違うと言えば絶対に違うし、心があるように見えるものには心というソフトウェアがインストールされているという受け取り方をするならその言い方で正しい。……もっと即物的な言い方をすると、私達の知性にはさっき言ってたエイドスの面がある、つまり自分の体の形をどのように成形するかみたいなことも行っているけど、人間の心には無い働きでしょ?」
まぁ、確かに自分の形は自分では決められない。
けど眼鏡がないと落ち着かなかったり、自分の顔を見間違えたり、性同一障害が起きたり、幻肢痛を感じたり、人間の心は『そうあるべき姿』みたいなものを知っているという気もする。するけど、成形はしないからなぁ。化粧とか整形手術ぐらいか。
「うーん、そうかぁ……」
あえてここまで追求すると、また別の話になりそうだ。ちょっと話が逸れすぎに思える。
「じゃあ、その既存の心というかそのソフトウェアがあれば、ヒュレーはできるんだから新しい個体は作れる? 子供を作る、というやつじゃなくても」
「できるよ。知性は簡単に用意できるわけじゃない、というだけで」
「さっき言ってたもんね」
「簡単じゃない、かぁ。そりゃそうだよな……」
私が単純に驚いているのに対して、ゴジは思案顔と言うか難しい顔をしている。
さっきまでみたいに怖がってる様子は無くなったからそこは良いけど、さっきっからわりと一貫したテーマに沿って話している気はしている。
「……ゴジは、新しい生命を作りたいの?」
「あ、いや、違う! 天宮さんの子供が欲しいわけじゃないから!」
まぁそうでしょうね。
流石にそれは見てたらわかる。というか、ゴジは元々の性格が臆病……というと悪口すぎるか、……慎重なタイプだから、育てる見込みが立たないうちに子供が欲しいなんて言い出さないだろうとは思う。