……8月2日(火) 15:40 車中・迷想:ダイモーンの生命
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
「じゃあ、ダイモーン的にあるものに知性があるかどうか、生きてるかどうかを決めるためにはどういうことをするの?」
「つまり見たらわかるって感じ」
なんとなく身に覚えのある判定方法だよな……。
「生命活動を細かく追求していく時に、ウィルスなんかの限界事例での判断が難しくなるのと同じく、知性活動を細かく追求する時にも限界事例では判断が難しくなるわけ。ダイモーンの知性はあなた達をモデルにしているからね。認識様態や概念形成が似るのは仕方ない。あなた達とわたし達――すなわち人族――は世界の中に誕生し、限られた能力で世界を把握して言葉で描写する。そういうものである以上、私達の言葉が世界のあり方を定めているのではなくて、世界のあり方を私達が言葉で表現しているだけなのだから、定義というのはいつでも曖昧だし不十分。だから、定義の示す端っこの方にあるものや初めてのものの判断に困るのは仕方ないんだ。こちらが定義として、言葉で決めた通りに世界を存在させているわけじゃない。そんな事ができるとしたら、それは神様か魔法だよ」
なんだか急にハルカちゃんが饒舌に早口になった。
生き死にという、一番論じたいところではなくて、ものの考え方、決め方のようなところに話が逸れて、そこで尽くす言葉が多いのは、私の思考が未熟だからなのだろう。
「……思想が強くなってきたね」
「あはは。普段は意識しないことだもんね。でも、ぎりぎり端っこの方のことを考えていると、ぴったりの言葉が不足してくるのは仕方ないんだよ。定義の話を本当に追求するなら、この先は哲学になる。私はどういうものだで済ませちゃってるから、ここから先は詳しい話もできないよ」
「そうなの? なんかずいぶん実感のこもった言い方だけど、ハルカちゃんてもしかしてわりとそういうことで場数踏んできたタイプ?」
「私自身は場数を踏んではいないけど、その予定でそれなりの訓練が積まれているんだよ。ここみたいな過ごしやすい世界に来ちゃったから、訓練が活かしきれてないけどね」
「へ? そんなに壮絶な身の上なの?」
「私がなにをしに遥か彼方からこの世界に来たのか忘れちゃった?」
正直なところ、まぁまぁけっこう忘れてたけど、言われたら思い出す。
「なんか宇宙探査みたいなことだったね、そういえば……」
「つまり行った先で生命とか知性とかの兆候とかを探したりするのが本来の目的に含まれてるわけ。結局、佐々也ちゃんたちと遊んでるみたいになってるけど」
「ああ、そういえばそうだった。古代のアニメに詳しいだけの人じゃなかったんだっけか。でも、だとすると、イルカとか高階者とかTOXとか、能力者たちのこととか、興味深いことは色々あるんじゃないの? あんまり一生懸命調べてるようには思えないけど」
「もちろんイルカにもTOXにも興味あるけど、いついつまでに帰るって期限が決まってることじゃないからね。そういう調査は機会があればでよくて、急ぐ必要はないんだよ」
「ああ、そういう感じか……。え、帰る? 帰るの?」
「そのつもりはあるんだけど、帰り方がわからないからなぁ。それに帰らなきゃいけないわけでもないし」
「帰らなくていいの?」
「まぁ、その辺も込み入った話だから、またいつかね」
「……気が向いたら?」
「そうだね」
さっきのハルカちゃんの言葉を借りて返したら、苦笑いが帰ってきた。




