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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
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……8月2日(火) 14:45 折瀬帰還・車中

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「他には、なにか幹侍郎ちゃんに変わったこととかあった?」

「変わったこと? 私にはわからないけど……、どうして?」

「どうして……。そういえば私が東京に来た頃からよく寝るようになったみたいなこと言ってたっけ? うーんと、症状を聞けたら病気なのかどうか分かるかもしれないと思ったから、なんだと思うけど、幹侍郎ちゃんが寝言を言ったり寝返りを打ったりとか、そういうのはあった?」

「無かった、と思うけど、わからない。護治郎くんと違って、私はずっと見ていられてたわけじゃないから」

「そりゃそうか。ゴジはなんか言ってた?」

「護治郎くんはハルカちゃんに幹侍郎ちゃんを見てもらいたいって……」

「ハルカちゃんに? なんでまた? ああ、いや、けっきょく機械のことだと思えば分からなくもないか……」

 機械の体を持ってる幹侍郎ちゃんの体のことは、銀沙の体のハルカちゃんに聞いたら分かるかもしれないってことなんだろうか。それだけじゃなくても、確かにハルカちゃんは機械の仕組みとかに詳しいし、触らなくても機械の状態がわかるみたいな事ができるみたいだったし。

 ただ、東京の経験ではハルカちゃんも他人の体の仕組みのことまではわからないみたいだから、幹侍郎ちゃんの身体のことはどうだろうか。

 ……わからん。この通話の後で聞くか。

 すぐ横に居るからっていま聞くと、あやふやな情報を窓ちゃん、ひいてはゴジに渡すことになるってしまう。ただでさえ混乱している今、それは避けたほうが良いだろう。

「ハルカちゃんも車に乗ってるよ。いま向かってるところだから、ゴジにもそう伝えといて」

「うん。……どれぐらいになりそう?」

「どれぐらいだろう? 来るときは四時間ぐらいだったから、それぐらいじゃないかな。まだ車に乗ったばっかりだし」

「みぞれちゃんは?」

「ぞっちゃんは大宮に残った」

「うん……、そっか」

「そうだよ。でも、いま思えば一人で残してきちゃってぞっちゃんだったら寂しがるかもね。でも、スタッフさんたちと仲良くなってたから平気かな?」

「みぞれちゃんはすぐ友だちができるもんね……」

「番組でも、通行人に話しかけたりして、すごかった。私にはあれはできない」

「うん……」

「あ、この話はまた後で、みんな居る時に話そう。もう切るね。ゴジにもハルカちゃんが来るって言っといて」

「ありがとう、連絡くれて。安心した」

「ごめんね、連絡が遅くなっちゃって、充電器を忘れた私がなにもかも悪いんだ。それじゃ」


「窓、なんて?」

「連絡くれてありがとうって。……他にはユカちゃんが言ってたことぐらい……」

「佐々也が居なくて心細いみたいだったから、声聞いたら安心したのかもね」

「私なんて、なにができるわけでもないんだけど……」

「友達とか安心とか、そういうのはなにをしてくれるからってだけでもないんだから、そんなこと言わない! だいたい、あんたは物事に動じないし、()(かな)った事を言うし面白いことも言うし、窓の不安を和らげる役に立つんだと思うよ」

「うーん、そうなら良いんだけど……」

 ユカちゃんの言葉には褒めてる雰囲気があるし、おそらく実際に褒めている。

 でも私は物事には動じるタイプだ。動じた上でフリーズしてから復帰する感じだから見た目の動揺があんまり無いという程度だし、理に適った事を言うとしても限られた知識の範囲内だし、更に言うなら別に面白くはない。

 私の主観的には、この中でなら理に適った事を言うよう心がけてることぐらいが有価値と思える点だけど、そんなのせいぜい心がけの話であって、心がけさえすれば誰でもできることだ。

 さらに言えば、今回は私の知らない範囲のことだというのが確定してるから、私の利点であるという理に適ったことを言うというのもそれほど役に立つことはないだろう。

 ……やっぱりなんの役にも立たない気がしてきた。

「私にしては珍しく佐々也の事を褒めてるんだから、素直に受け入れなよ」

「……分かったよ。褒めてくれてありがとう」

「どういたしまして。……休憩なしで帰るけど、みんなトイレは大丈夫?」

「わからぬ。漏れそうなら言うよ。やちよちゃんもそれで良い?」

 これは私の一存ではわからないから、一応聞いておく。

「私も漏れそうなら言う」

「漏れそうになる前に言ってよ。トイレのある休憩所を探すとき長いと十五分ぐらいかかるから、漏れそうになってからだと間に合わないかもしれないんだから」

 間に合わない……。不吉なことを……。

「だってさ、やちよちゃん」

「うんわかった。ね、窓開けても良い?」

「いいよ」

 やちよちゃんはユカちゃんの許可を受けて窓を開ける。

 吹き込む風や外の景色が楽しい様子だ。

 そういえば確かに、東京では車の景色や窓を開ける楽しみは無いのかもしれない。

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