……6月21日(火) 18:10
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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「その話、興味あるな」
「え? 生殖の話?」
「ち、違うよ! 新しい身体を作る話! 銀沙っていうのとか体とかを新しく作れるのかってこと!」
「銀沙なら私が作れる。というか、人間で言うと新陳代謝みたいな作用が私にもあるから、それで間に合う感じかな」
「お腹の中で子供の銀沙を作るみたいなこと? それだと母って感じするねぇ」
「お腹? ああ、哺乳類の妊娠のことね。そうじゃない。さっき指でも体でも生えてくるって話をしたでしょ? 余分に銀沙を作って生やす感じというか、もっと簡単に言うとそういうつもりで指でも切り離して銀沙を準備して、それを新個体向けに調整しておくと銀沙胞の機能で体が生えてくるみたいな感じ。材料は必要になるけど」
「オゥ……。……プラナリアー」
「プラナリアは再生であって同じものが出来上がるからクローンみたいなものだけど、そうじゃなくてヒュレーに定位される知性が変わるなら別個体だよ。あ、いまの私みたいに、しようと思えばオリジナルと同じ知性に別のヒュレーをあてがうこともできるし、その場合はクローンみたいなものだけど」
「なんか、天宮の話を聞くと知性とヒュレーって、ゲームのソフトとハードみたいだな」
と、ゴジが感想を言う。
まったくそんな感想を持たなかったので、どこが似ているのか私には全然わからない。
比喩として考えると、知性がソフトウェアでヒュレーがハードウェアなんだろうけど、ゲームのハードって作品ごとに別のものを使うんじゃなくて、同じものに別のソフトを入れると別のゲームで遊べるものだけど……。
「ある意味では神指くんの言うとおり。知性は自分のルールで稼働するなにかであって、入力に対して反応するなにかであるからソフトウェアの機能に近いし、それを稼働させる物理条件であるという意味でヒュレーはハードウェアに似ているかもね」
???
似てるのか……。
「とりあえず、知性はソフトウェアってことだけしかわからなかった」
「知性でないソフトウェアのほうが多いから、別概念だけどね」
知性でないソフトウェアというのは分かる。リモプレとか画像解析のアプリとかのことだ。
いや、画像解析のアプリはなんかちょっと知性っぽいのかな? まぁ天宮さんの知性は「ある種の」ソフトウェアって理解をしておこう。
「別の知性をあてがうと別個体になるって話だけど、別個体でもその銀沙っていうのの性質が均一だと病気に弱くなるんじゃない? 有性生殖ってそういう良さがあるって聞いたことがあるけど」
「銀沙胞という銀沙が集まって細胞と似た働きをする中間の段階があるんだけど、これは細胞と似てるとは言っても人間のような有機生命ではないから既存の病原体由来の病気はしないよ。もちろんエラー銀沙もエラーの銀沙胞も出る場合もあるけど……、これは長い話になるからまた今度にしよう」
「あ……」
ゴジがなにか言いたそうにしていたけど、話題が変わったから飲み込んだようだ。
ここで混ぜっ返すとまたゴジが恥ずかしがってしまうから止めてあげておこう。過干渉気味の姉(私のこと)に負けず、彼には健やかに育ってほしい。一定の年齢の青少年が生殖に興味を持つのは当然のことだ有るか無いかで言えば私だって興味はある。
今のところ自分はまだいいかなって思ってるだけで。
「結局、人間の繁殖とは随分違うんだね。指を切って増やすなんて、やっぱり植物とかキノコとかみたいだ。えーと、それでなんの話をしていたんだっけ……」
「私の拠点の話だったはずだけど……」
「そうだった。えーと、ほら。天宮さんとゴジの間には子供ができるわけじゃないみたいだから、泊めてあげなよ」
「子供、作ろうと思えば作れるよ?」
「えっ! そうなの! 有性生殖じゃないのでは!?」
結局食いついてしまった。
いや、私も興味はあるんです、興味は。
※4/16に更新をミスりました。
※幸い次章更新の隙間でカバーできるので、一日一部分づつの更新を続けます。