8月2日(火) 14:45 折瀬帰還・車中
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
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8月2日(火)
14:45
折瀬帰還・車中
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「幹侍郎ちゃんが動かないってのは、眠ったまま目が覚めなくてまったく動かないんだって。もともと呼吸もしてないから、ただ長い間眠ってるのか、もう二度と目覚めないのかどうかわからないって。……窓が言ってた」
車を走り出させて、少し余裕ができて。
さっきユカちゃんがこう言ってた。
私は聞いた言葉をうまく飲み込めないけど、気になったことを聞いてみる。
「窓ちゃんが……。ゴジはなんて?」
「護治郎とは話さなかった……。というか私も実際に幹侍郎ちゃんが寝てるところに見に行ったけど、護治郎は話せる感じじゃなかったね」
「落ち込んでた?」
「どちらかと言えば、錯乱としてたというか、呆然としてたというか」
「ああ、そっか……。ゴジは……、そうかもね」
話しかけられないというのは、わからないでもない。
ご両親が亡くなったときは、それで不登校になったのだ。
あの頃は私もほとんど相手にしてもらえず、ゴジが死んでないことを確認するぐらいしかできなかったし、裏で幹侍郎ちゃんを産み出してたなんて重大なことも知らなかった。
「……窓ちゃんはなんて?」
「私に聞くぐらいなら、自分で連絡とりなさいよ。言っとくけど、私があんた達を連れに来たのは窓にお願いされたからだからね」
自分で連絡と言われると、確かにと納得するしかない。
「ああ、そうだね。そういえば、ユカちゃん今日は旅行の申請はできてる?」
「してないよ。違法行為中」
「え? 大丈夫なの?」
「早く戻ればとか、緊急の場合とか、理由はいろいろあるからそこは平気。バレなきゃ問題も無いし、バレようも無いから」
ユカちゃんは前を向いて運転中なので、表情の細かいところまではわからない。
でもユカちゃんは本来ならそういう性格の子ではないので、大変申し訳ない気持ちになった。一方で今回の話はユカちゃんから見てもそれぐらいの事なんだろうという状況への理解も進んだ。
それぐらい、と言ってもユカちゃんに幹侍郎ちゃんの容態が判断できてるとは思ってはいない。でも、おそらくゴジと窓ちゃんの様子が尋常ではなくて、あのユカちゃんが法を蔑ろにするぐらいの切迫感があったってことなんだと思う。
「なんか、そういうの嫌いなのに、ごめんね……」
「そんな事はいいから、早く連絡してあげな! 携端壊れてるわけじゃないんでしょ?」
「あ、はい。充電切れだったんだよ……」
「いまは?」
「今は切れてない。寝坊して朝から携端見てなかったけど……」
なんかもう、本当に面目ない。
二人の様子を耳にしたわけだけど、まだしも話ができそうなのは窓ちゃんだったみたいだから、窓ちゃんに連絡した方が良いか。ゴジの方には連絡をしても話ができる気がしない。
呼び出しコール。
十秒で通話開始。
「佐々也ちゃん?」
「佐々也です。ごめんね、連絡が遅れて。充電切れてた」
「優花子は?」
「いまユカちゃんの車の中。そっちに向かってるよ」
「会えたんだね、良かった。幹侍郎ちゃんのことは……優花子から聞いた?」
「聞いた。動かないってね……。寝てるんじゃなくて?」
「分からないけど、もう三日目だから……。この前、佐々也ちゃんと話した時に寝ちゃったと思うけど、その後ずっと起きないの……」
咄嗟に日付を思い出せないので、指折り数える。
幹侍郎ちゃんと通話したのは新宿に行く前の日。次が新宿に行った日、その次がクレーターに行って池袋に帰った日、今日。だから、たしかに三日か。
こうしてみると行程の内容が濃すぎて三日前とはとても思えない。
一日目――新宿に移動した日――二人は目覚めない幹侍郎ちゃんにやきもきし続けて、翌日――クレーターに行った日――の昼頃にはもう待てなくなってこっちに連絡をくれていたんだろう。でも私はその日の昼頃といえば新宿の屯所を出発した頃で、つまりちょうど電波が通じなくなった頃合いだ。そして同日の四時間後ぐらいに戻ってきたときには録画で遊びすぎて携端は充電切れになっていて、連絡を受けられなくなっていた。
本当にちょうど、連絡が取れなかった時間のすべてが音信不通だった感じか……。
なんとも間の悪い……。
「そっか。寝過ぎにしても長すぎると思ってたけど、様子見てた時間もあるんだもんね……。いま聞いたところだから、三日目……。……三日は確かに長いね」
「……ん」
そう言って窓ちゃんは黙る。追加の情報は無し。
窓ちゃんだからな。最近はぞっちゃんとばっかり一緒に居たからちょっと感覚が狂う。
「他には、なにか幹侍郎ちゃんに変わったこととかあった?」
「変わったこと? 私にはわからないけど……、どうして?」




