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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
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8月2日(火) 10:30 八日目:池袋宿所

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。

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8月2日(火)

     10:30

       八日目

      池袋宿所

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 撤収日の朝。

 今朝、私はちょっと寝過ごしてしまった。

 なにしろ、私個人は結局のところ東京を離れないというか、どちらかと言うとすぐにまた来ることになる。そのせいでもしかしたら微妙に緊張感が欠けていて寝坊に繋がったのかもしれない。

 目覚めた時間ですでに朝ごはんの時間には間に合っておらず、飛び起きて着替えて顔を洗って、集合場所に駆け込む前に部屋をいちおう見回して、寝るときに仕掛けておいた端末とバッテリーのランプで充電されていることを確かめて、急いで手荷物に詰め込んだ。

 昨日の夜、荷物を整理していたのが良かったらしく、寝坊したわりにここまでの流れはスムーズだった。

 やればできる、私!

 手荷物と旅行鞄を持って、もう一度部屋を見回して忘れ物を確認。

 寝間着を脱ぎ散らかして放おっていたのを発見して、昨夜のうちに用意していた『朝に脱ぐ寝間着を入れる袋』に入れて旅行鞄に向き直る。旅行鞄には『朝に脱ぐ寝間着を入れる袋』のための隙間を作るのを忘れていたけど、Tシャツとかがちょっと入ってるだけの袋なので、無理やり詰め込めば簡単に入る。

 もういちど部屋を見回して、もういちど忘れ物がないことを確認して、手荷物と旅行鞄を引っ掴んで集合場所の食堂に駆け込む。

「あ、佐々也ちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「さ〜ちゃん! 呼びに行こうかと思ってた〜」

 別に寝坊をしたと言って責められたりはしない。

 食堂というか大部屋も撤収の準備が進んでいて、最低限の撮影用機材以外は片付け始められていた。

 みんなは食べ終わっているので朝ごはんの大部分はもう片付けられていたけど、私がいつも飲んでいたパックの野菜ジュースとサンドイッチが紙ナプキンの上に置かれていて、食べるように言われた。「わざわざすいません、ありがとうございます」と礼を言ってそれらをいただく。撤収作業をなんとなく撮影していたカメラにその姿も撮られてしまったけど、まぁそんなもんだ。

「そのサンドイッチのレタス、一昨日に工場で収穫したやつらしいですよ。せっかくだから手ずから収穫したものを回してくれたそうです」

「そうなんですか? そう言われるとなんだか美味しいような……、いや……昨日までと変わらないかな」

「え〜っ! そこは美味しいって言わないと〜! リテイクリテイク!」

 私の感想にぞっちゃん。

「だって毎日美味しいから」

「あらやだ……さ〜ちゃんったら素敵なことを言っちゃって……」

 ぞっちゃんが頬に手を当ててそんな事を言い、あまりにも近所のおばちゃんみたいな反応で、つい笑ってしまった。

 実際、自分が収穫したぐらいで味が変わるわけはないというか、変わるとしたら下手くそな収穫をしたせいで不味くなる方ではないかという気はする。味がどうこうというのじゃなく、自分が収穫した野菜という部分でもなく、野菜工場で見たあの野菜なのかぁという独特な感懐はもちろんある。あるけど、それで味は変わらないよね。

「ただ……、これがあの工場で見た野菜で、配給のみんなと同じものを食べてるんだというのは強く感じますから、美味しい野菜に特別な感情を覚えますね。美味しさの理由がわかったような気分」

「さ〜ちゃん……なんて素敵な食レポ……。私と一緒に食レポで天下取らない?」

「無理だよ。私は味のことなんて美味しいしか言えないんだから」

「と、寝坊はしても美味しいところを持っていく佐々也ちゃんなのでした」

 これはハルカちゃんからの冷静ツッコミ。

 寝坊したことは反省してるよ、ほんとに。


 私が食べ終わったのが計ったようにぴったり約束の時間だった。

 時間に合わせて清水さんとやちよちゃんが連れ立って食堂にやってくる。

 彼らが到着する姿や、みんなで連れ立って移動する姿を撮影しながら地下駐車場まで移動。撮影ったって私がしていたことはカメラを意識するでもなく歩いているだけなんだけど。

 移動の間、私達が通る道には奇妙に人通りがなかった。私達には知らされていないけど、やちよちゃんが居るから教団側で交通制限をしているのかもしれない。

 駐車場に来て、手荷物以外の大きな荷物を予め車に積んでしまう。

 そして手荷物だけを持った姿で車の前に集合。これから東京とのお別れの撮影をする。


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