……8月1日(月) 18:00 七日目:池袋宿所
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
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みんなで並んでお弁当を食べる。
とりあえずの記録映像ということでカメラも回っていたのだけど、舞台裏ということで特にナレーションや天の声なども無し。食事の内容がわかるように、丁寧に撮影されてはいた。
私はハルカちゃんにも言い含めて、いちおう食品に口を付けてもらった。
私達は出演者なので相応に目立つため、感想を求められたりもした。「なんだかピクニックみたいで楽しかった。東京の最後の夜にみんなで楽しく食べられるご飯を用意してもらえて、特別配給の人たちの心遣いが改めて沁みました」みたいなことをぞっちゃんとハルカちゃんと三人で掛け合いながら答えた。
明日は大宮に帰る。
楽しい食事をしながらも、一行はなんとなく感傷的な雰囲気になっていた。
何時間か一緒に居た戦闘部隊のみなさんとのお別れがあったり、明日の東京とのお別れを思い浮かべて寂しいような気持ちがしてきたり。単純に疲れてもいるから元気がなくて、しんみりに歯止めが効かないような部分もあったりとか。
ぞっちゃんにはこういうお別れの空気がかなり堪えたらしい。
まぁ、私個人は東京とのお別れはなくて、すぐにまた来るんだけど……。
食事は終了し、撮影も終了となった。
大宮でも撮影の予定があるため撮影隊同士は特にお別れというわけでもなんでもないので、ご飯を終えたらさらっと普通に解散になった。
夕食後、ぞっちゃんが私の部屋に来た。
編集会議の方は山盛り作った素材の選別と突貫での動画作成があって見学をさせてもらえる余裕はないんだそうだ。
ぞっちゃんはいつだって人恋しいので、誰かと一緒に居たいというのは分からなくもない。
帰る前にもう一回ぐらい幹侍郎ちゃんと通話するのもいいかなと思ってたんだけど、今日はぞっちゃんに付き合っておくことにしよう。
今日のぞっちゃんは私と居る時には特にべたべたしてくるでもなく、今日撮影した自分の動画の切り抜きを作りながら思いついた時にポツポツ話しかけてくる感じだった。普段より私に対してはべたべたを手加減してくれているフシがある。
実のところ、この場に私が必要なのかどうか疑問だと感じる部分もなくはないんだけど、ぞっちゃんはそれですごく安心するみたいだったから、私としても正しいことをしているという気持ちになることができている。
明日は撤収の日なので、私は荷造りをしながらぞっちゃんの言うことを聞いたり頷いたり。
一週間弱のあいだ住み着いた池袋の部屋を、疲労してぼんやりした意識で見回す。
意外でもないだろうけど私は日頃の整理整頓が苦手で、短い滞在でも部屋の中には結構荷物が散らばっている。持ってきたものがそもそもあんまり多くないのが救いで、それらのものを回収しながら旅行鞄に詰め込んでいくしかないのだろう。
日頃の整頓とは逆に、頑張って詰め込むと決めたときに詰め込むのはわりと得意だ。
手荷物は別。洗濯物はこの袋に入れて、明日の朝に着るものを用意して椅子の上に置き、明日の『朝に脱ぐ寝間着を入れる袋』を横に並べる。タオルは……。あ、いや、タオルは部屋のものを借りてるから考えなくても良く、歯ブラシは明日の朝も使うから手荷物でいいだろう。
充電器……は、寝るときに使うし、手荷物だなこれは。
もうとっくに疲れちゃってるので今から充電をしたとしても寝る前に携端をいじるのは無理だ。だから眠る前に充電を仕掛けるのであればいつでも同じだ。色々な品物を集めて鞄に詰め込んでいる今、その手を止めてコンセントの近くに行って充電を仕掛けるのはいかにもしんどい。だからその場からあまり動かず、携端と充電器を枕の上に放り投げておく。枕の上に置いててあれば、充電を仕掛け忘れて眠るドジは踏まないで済むだろう。
片付けのようなこういう作業、普段は気が散ってしまって捗らない時間があったりするんだけど、友達がいて生返事をしているぐらいの状況だととても上手く集中できる。適度に疲れていて雑念が入らないのも良いのかもしれない。きっと気が散る方向が定まってるからだろうと思う。ぞっちゃんもぞっちゃんなりに作業しながらだし、お互いにちょうどいい感じなんだろうね。
えーと、けっこう手荷物がいっぱいだけど、そういえば充電器とバッテリーを仕掛けて寝るから、手荷物にこれを入れる隙間を作るために旅行鞄にものを少し移さないといけない。爪切り絆創膏なんかの薬入れはもう使わないだろうし旅行鞄に移すか。これで充電器と携端とバッテリーが手荷物に入るか? 入るな。
というぐらいのところで夜もいい時間となり、ぞっちゃんが帰っていった。
ちょうどキリもいいので、バッテリーと端末の充電をしかけて私もすぐに寝た。




