6月21日(火) 18:10
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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「天宮さん、家は? どこ住んでるの?」
……
「決めてない。というか、別に無くても大丈夫。本来はもっと過酷な環境にいるはずだったから想定よりかなり快適な状態だし、なんなら拠点なんて別に無くても……」
「……よくそれで転入してくる、というか学校に通う発想になったな」
天宮さんのセリフにゴジがツッコミを入れている。
言われてみたら本当にそうだ。
「そこはほら、憧れというか……」
「憧れぇ?」
意外な発言に素っ頓狂な声が出てしまった。
「知らないかもしれないけど、二十世紀末から〜二十一世紀中葉にかけてのアニメ作品群に頻出する日本の学校の本物があったら行ってみたいと感じても仕方ないと思わない?」
「ちょっと何を言っているのか……」
本当に分からない。
「太陽系では地球が失われてしまってから、地球時代の芸術が根強く支持され続ける現象がどうしてもあったわけ。その芸術の一分野に『学園モノ』っていう日本の学生生活を主題にしたものがあったのね。私もそれがすごく好きで、資料なんかでは見て知ってたけど、本当に実在したのか、という驚きがあって」
「えっ……趣味?」
「真面目な歴史的興味もあるけど、純粋な楽しみの側面がないのかと言えばそういう面もあるわよね」
……これは、ここまでの壮大な話に対して、転校してきた理由はめちゃくちゃしょーもない話なのか?
「えーと、それじゃあ、まだ明日以降も学校に参加する?」
「そのつもり。というか、目先の目的があるわけじゃないから、とりあえず安定な生存パターンを作り上げる必要があると感じてる。そういう意味では、たしかに拠点があると良いわね。ええと、詳しい話を聞いたよしみで聞くけど、どこか心当たりとかない?」
「心当たり……」
ちらっとゴジの方を見ると、嫌そうな顔で見返してきた。
分かっているようだ。
「ゴジの家……」
「はーっ」
私が口に出すと、ゴジが盛大に溜息をついた。
「部屋はあるけど、女の子を泊められないよ!」
「……女の子……なの?」
「どこか女の子に見えないところがありまして?」
天宮さんがよく見てくれと言わんばかりに両手を広げてポーズを取る。
合わせて表情も笑顔でにっこり。
これは可愛い。
けどそういう事じゃないんだよなぁ……。
「女の子に見えるけど、生物的には女の子なの?」
「違うわよもちろん。そもそも有性生殖じゃないし」
「有性生殖じゃない? 単性生殖なの?」
「私達の種族では、新個体を増殖させることを生殖活動と呼ばないの。意図して新個体を作ることはできるけど、概要としては新しい知性を生み出して、その知性を定位させるためのヒュレーを新しく用意するみたいな方が概念として近い」
「……ええと。ヒュレーとは古代ギリシャ語で質料。形相――エイドス――という言葉と対になっていて、アリストテレス哲学で用いられた概念。意味は、……エイドスの方は物の形みたいなことで、ヒュレーは物の材料、みたいな事なのかな?」
ゴジが携端で調べて教えてくれた。最後が質問形なのは、書いてあることを要約してくれたんだろう。
「元の言葉の意味はそうだけど、私達にとってのヒュレーは知性を物理世界に定位させるための実体、ぐらいの意味かな。エイドスの方は、ヒュレーを個人用に成形する機能のこと」
「……はぁ。本当にエイドスの方もあるんだね……」
天宮さんはサービスが良いのか何なのか、聞いた事はわりと教えてくれるので話が逸れてしまうみたいなところが結構ある。追求すればこれも面白そうな話だけど、さしあたりいまは追求するときでは無さそうだ。
さて、話を戻すか、と思ったらゴジが食い込んできた。
「その話、興味あるな」
「え? 生殖の話?」
「ち、違うよ! 新しい身体を作る話! 銀沙っていうのとか体とかを新しく作れるのかってこと!」




