……8月1日(月) 13:00 七日目:撮影・新宿見晴らし台
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
「海に繋がってる湖ってこと〜?」
「あー、たぶん違うよ、ぞっちゃん。私は別にそういうことに詳しいわけじゃないけど、この下の水はたぶんほとんど純粋に海の水なんだろうね。ここに流れ込んでくる川がないもの」
「川がないということはここにある水は海から来てるってことになるから、海水なんだよ。雨水も多少はあるだろうけど、海にだって雨は降るわけだからここだけ雨水で海が薄まる理由もないし。いや、詳しくは知らないけど。どうかな、やちよちゃん?」
「あーうん、そうだね。海か湖かどうかは人間が分類してるだけだから、私はあんまりわからないかな。でも、下のが海の水なのはほんとだよ」
よく聞くとなかなか深い回答ではある。
ガイアさんの知識ってことだ。
「海なのか、すごいなぁ……。ねぇさーちゃん、これが海だとどう違うの?」
「えっ? さぁ……。塩分とか、名前とか? これ、下の海には行ける?」
実際に詳しく観察したらなにか分かるかもしれないという気がしたので、実際に近づいて行けないかどうかやちよちゃんに聞いてみる。
「道がないからここから行くのは難しいね。六本木からだと宿場から内湾方向に出れるんじゃなかったかな?」
「ロッポンギ? って地名?」
「地名です。六本木宿は内湾でも奥側の方にある漁港ですね。そこにも埋没した巨大遺跡があって、遺跡上部から外に出るように道が作られています。あと、内湾には海側の開口部からももちろん行けますけど、下の海に行くのはおすすめしません」
やちよちゃんと話していたんだけど、これには清水さんが答えてくれた。
「どうしてですか?」
「TOXが多いんです。必ずではないんですけど、TOXは傾向としてこのクレーター山を越えて内湾に向かいますので」
「TOXが多い? じゃあ漁港と言ってましたけど、漁はできないのでは?」
「それはやってます。漁師たちにしてみれば地元なので、そこはやり方を心得てるんです。とはいえ、内湾ではTOXに施設を破壊されるので養殖なんかはできないようです」
「内湾ではということは、湾の外ではやってる?」
単純に文言に引っかかって質問返しをしてしまう。
「細々と。上から来るのは避けられませんので教団の収穫として当てにできる規模ではないですが、教団でも海苔なんかを養殖してる住民たちと取引はあります」
「あー」
細かい内幕を知ってしまった。なるほどなぁ、ってもんである。
「その方々って、僕がコンタクトできますか?」
これはよれひーさん。
「直接行かれるより、私達を通していただくべきだとは思いますが……」
「ええ、もちろんそれで大丈夫です。他にもいくつか似たような東京の生産品の話があると良いんですけど……。あ、撮影中だった。また今度、これはご連絡させていただきます」
「私達としても日本のお金がありがたくないわけではないわけではないですけど、いろいろな事情もありますので、次回以降も同じように案内できるとは限りませんが……」
「ああ、それはもちろん。僕の方も何度も東京の企画をすることはできないかもしれませんから」
「わかりました」
と、清水さんとよれひーさんがなにか大人の相談を始めてしまった。
そう言えば、海も東京の外と繋がってるんだよな。陸だってもちろん繋がってるんだけど。
なんとなく東京は閉じた空間のような気がしてしまうけど、そんなわけはなかった。なにがどうということはないんだけど、なんとなく事前に持ってた思い込みのようなものが東京ではどんどん覆されているような気がする。別に数えてるわけじゃないからいつもより多いかどうかなんてわからないけど、道路のときといい、海が繋がってることといい、いつもなら思いもしなかったような時にそういう感覚に気がついているような気はしている。
視野が広がっている感触、というのがこういうものなんだろう。




