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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
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……8月1日(月) 10:00 七日目:撮影・新宿駐屯所出口

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「でも、友達ができたりもするし」

「私は八千代だから無理なんだよ……」

「え?」

「……この話もあとにしよう。まぁ、私は勉強しなくても生きていけるんだ。能力(・・)があるからね」

 やちよだから無理、という言葉の異様さに引っかかって、後半はほとんど聞こえてなかった。ちょっと思いついたことがあり、とはいえ秘密のことだろうから、小声で聞き返す。

「やちよっていうのは、もしかして……役職名?」

「しーっ」

 やちよちゃんはそれを否定するわけではなく、口の前に一本指を立てて静かにしての合図。その後に小声で付け加える。

「名前と、両方」

「あー……」

 開祖と同じ名前の役職に就いているということは、宗教組織の中でならばやっぱり相当な重鎮であることに間違いないんだと思う。やちよちゃんが教主と聞かされてもいまいちピンとこなかったけど、これでだいぶ色々なことが明確になった感じはする。教主ってどういうこと? やちよちゃんが? ということの意味がわかった感じだ。襲名しているわけだ。

 顔でバレるから池袋の関所を避けた理由もわかるし、どことなく大げさに思えた清水さんの態度や、特別扱いの理由も分かる。

 それに、どことなく半信半疑だったやちよちゃんの能力、地球の意思が分かると言っていたことに信憑性が出てきたというか、それだけの特別な役職であっても文句が出ないくらいにはほんとっぽいものなんだろうと感じることができるようになった。

 じわーっと、やちよちゃんの身の上に関するいろいろなことの焦点が合った感じがする。

「……あれ、そうすると、部隊の人たちも知ってるの?」

「もちろんだよ。ガレージに人が少なかったのもそれが理由だし、いまも秘密にしてもらってるんだ。ね、佐々也ちゃん、これぐらいにして? また後で話すから」

「あー、そうだね、わかった」

 いやしかし、こうなってみると、これまた随分と特徴のある人と知り合いになったもんだ。

 私はこんなに普通なのに、こうも特別な人とばっかり友達になると、なんだか引け目を感じちゃうね。まぁ、だからってどうもしないんだけど。

「あっ!」

 と、急に気がついた。

「どうかした?」

「……写真とか撮っても平気だった?」

「別に問題ない……。友達あんまり居ないから、私はこういうの嬉しいんだよ?」


  *   *   *


 とかそんなこんなで始まって山道を二時間、特にこれという事件もなく登っていった。

 特に峻険というわけではないけど坂であることが分かるぐらいの上り坂、踏み分けた獣道と整備した山道の中間ぐらいの道を歩き続けた感じだ。

 長く歩くのはかったるいという気持ちはあるものの、私とぞっちゃんはもともとが山奥育ちなのでこういうところは平地の人ほど苦手ではない。ハルカちゃんはまぁ、そもそも人間じゃないから疲れ知らずなんだろうと思う。うちの近所でもよく自然観察をして回っていたからコツも掴んだようだし。やちよちゃんや戦闘部隊の方々は言わずもがな。

 対してよれひーさんやスタッフの皆さんはわりとヘロヘロになってしまっている。

「みなさん、すごいですね」

「あー、私達、田舎の子なんで山道には馴れてるんですよ。特にぞ……みーちゃんは、運動神経もいいし、小さい頃には虫取りの名人だったんだよね。ね、みーちゃん?」

「えー、私、運動神経は別によくないよ〜。そりゃあ、さーちゃんよりはいいけどさ〜」

「うっ……。それを言われると……」

 たしかに私が鈍くさいのは事実。

 というか別格で鈍くさいので、私を基準にしたらほぼ全ての人類は私より上だし、人類の半数は運動神経がいい事になるんじゃないかと思う。

 でも、私を基準にしなくてもぞっちゃんは運動神経が良い方になるはずだ。

 確かに折瀬には運動神経で不動の頂点である白虎……、じゃなかった窓ちゃんが居るので、ぞっちゃんの運動能力が注目を集める機会はあんまりない。でも、力持ちで、足も速くて、疲れ知らずというすべての面でぞっちゃんは普通以上というか、一般的にはけっこうな上位である。というか体育の成績だって特に運動部でもないのに最上位グループだ。

「でも、ぞっちゃんは……」

「それに、いまは虫を捕まえたりしないし〜」

「確かに最近はあんまりやってないね。虫、嫌いになっちゃった?」

「昔ほど好きじゃないけど、いまでも嫌いじゃないよ。ただ、みんなが嫌がることが多いから」

「言われてみれば、学年が進むに連れて虫嫌いは増えてきたな……。なんでだろう?」

「そういのってなにか嫌な思い出があって、他の虫と一緒に虫全部嫌いになるみたいだよ〜」

 ぞっちゃんの言葉を受けて、色々と思い当たる節を思い浮かべる。

 そこに、息も絶え絶えな様子でよれひーさんが声をかけてきた。

「な……なるほど……。あ……、あの。休憩してもいいですか?」

「もちろん良いですけど、あんまり休憩が多いと却って疲れますよ?」

「そうは言っても、もう歩けないから……。五分休憩にしましょう」

 そう言って十五分ぐらいの休憩をしている最中に、ぞっちゃんがバッタを捕まえてよれひーさんに差し入れをしたりとかなんとかしながら、山頂というかクレータの一番高いところに到着した。

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