……8月1日(月) 10:00 七日目:撮影・新宿駐屯所出口
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
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やちよちゃんが「私が無防備で出歩くと怒られるんだ」とこっそり教えてくれた。
重要人物だなぁ……。
あ、そういや教主だったか。
……やちよちゃんが身分を隠したくなる理由がだんだんわかってきた。
歩き出すタイミングを私が測る必要はなく、基本的に後からついていく形だ。
先頭を切るのはカメラを持ったよれひーさんと、アシスタントのけんちゃんさんと桜さん。清水さんは解説係で、ぞっちゃんはあんまりカメラから離れないように心がけて前の方を行く。私はその後。私達より後ろに、川口さんと浦和さんがナレーション無しの撮りっぱなしのカメラを構えている。
そういう感じでぼんやりついて歩き始める。
重そうな扉の向こうはなにもない小さな部屋で、重そうな扉よりは軽そうなもう一枚の鉄の扉があり、すでに開いて外からの光が差し込んでいる。
そのもう一枚の扉を通るとそこは外界。屋外、地上である。
思えば、地下の街道を通って他所の町まで来て、一日中地下暮らしをして、久々の地上という気がする。
天気は晴れ。
太陽と顔を合わせるのも二日ぶりぐらいか。
元気してただろうか。
とはいえここは太陽と空は見えるんだけど周りの風景なんかはなにも見えない。
私の身長の五倍ぐらいある谷底だ。
地下のガレージから地上に上がるための坂道の一番下。
見上げても、両側の壁の上に木が生えている様子なんかもない。
足元はコンクリートの道。
両脇の壁はコンクリートブロックできれいに整えられていて味も素っ気もない。
建て替え中のショッピングモールの基礎工事みたいな光景だ。
「うわ〜、綺麗に整備してるんですね〜。ピカピカだ」
と、ぞっちゃんが前の方で感想を言っている。
「年初にわり盛大に破壊されてしまったので、まとめて修繕されたんです。なにしろここは車両出入り口でよく使われる場所ですから優先的に整備されるんです。でもそれから一度も車両は戦闘出動していないので、おっしゃる通り新品同様と言えるかもしれません」
「やはり東京。きれいに整備されているように見えるここにも、戦いの爪痕が隠されている」
よれひーさんの天の声に合わせて、ぞっちゃんが感想を言う。
「戦いの跡なんですか〜。こわ〜い。よく壊されるんですか〜?」
「あ、いえ。記録によると二百年ぶりぐらいらしいです。そう思うと、こういう綺麗な状態はレアですね。まぁ、誰かにお見せするような場所じゃないですから、綺麗に見えても良いことはないんですが……」
なんというか、どう思えば良いのかよくわからないやり取りではある。
護衛の戦闘部隊の方みたいに緊張感が出て良いのかもしれないけど、落ち方が難しいので番組は使われないかもしれない。もしかしたら切り取って一部分だけ使うのかもしれない。
屯所の出口付近は監視のためにそれなりに切り拓かれており、はげ山みたいなところを多少歩いてから、実際に山道っぽい木々の間を歩き始める感じになる。
もちろん道中は全部撮影されている。
ぞっちゃんは部隊の人に興味津々らしく色々と話しかけているが、あえなく塩対応されているようだ。
戦闘部隊の人には私も興味がないわけではないんだけど、知り合い、つまり窓ちゃんのことを引き合いに出してしまって余計なことを言いそうな気がするので控えることにした。昨日、窓ちゃんのことですっとぼけたばっかりだし。
結果、やちよちゃんとずっと一緒にいる感じになったけど、まあそれでいい気はする。
せっかく仲良くなったし、そういえばまた会わなくなるかもしれないので、さっきの流れからやちよちゃんの写真を道々歩きながら携端で撮ったりしつついろいろと話をする。
ただ、いつ番組のカメラが来て録画されるかわからない状況なので、もう明々後日になったTOX襲撃以降の予定についての話をここでするわけにはいかない。仕方がないので、世間話をすることにした。
世間話、私がもっとも苦手なやつだ。
「そういえば、やちよちゃんは何歳なんだっけ?」
「たぶん十四歳」
「たぶん?」
「幼い頃に抗生教に引き取られたから、正確な誕生日が分からなくて」
「ああ、そういう……。それって、詳しく聞いても平気なやつ?」
「あんまりみんなに話すようなことじゃないから、また今度ね」
「わかった。じゃあ、学校は?」
「池袋で小学校には行ってたよ」
「中学校は?」
「東京には無い。けど、教団で希望すればリモプレで大宮の学校の授業を受けることはできるようになってるんだ。私は受けてないけど」
「へぇ、そうなのかぁ。でも、学校に行きたいと思ったことない?」
「別に……。勉強好きじゃないからなぁ」
実のところ私は授業を受けるのが好きなので共感はできないのだけど、同じことを言う人はけっこう居るから理解はできる。
「でも、友達ができたりもするし」
「私は八千代だから無理なんだよ……」
「え?」




