……8月1日(月) 10:00 七日目:撮影・新宿駐屯所出口
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
10:30
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さて、導入のシーンは録り終わった。
その後すぐにガレージにあるなにかの箱を台にしてハルカちゃんがスカーフでリボンを作る。ガレージなのでなんとなく置いてあるようなものは豊富だ。私はその間、持て余しているので少し周囲を探検。
私が動こうとすると戦闘部隊の人が一人こちらを気にしている様子だったので、視界から外れてしまわないように心がける。子供の頃、こうして迷子になってはお母さんに怒られていた。その頃の経験があるので、私ははぐれてしまわないように気を使っている人の気配に敏感である。人生何事も無駄はない。
これまで居たのは車両出入り口の真正面の、要するに通路。
入り口の近辺は視界がひらけていて、通路の脇にはなにが入っているのかよくわからないけど上に物を置きやすいなにかの箱がいくつか並んでいてちょっとした玄関のような雰囲気になっている。いまはその箱の一つの上でみんなはリボンを作っている。その玄関みたいになっている一帯には外向きに重そうな鉄扉があり、外界との行き来に使う歩行者用の通用口になっているようだ。
行き止まりになった奥の壁には小部屋があり、中にはそれほど居心地が良いわけでも無さそうな感じで椅子や畳が置いてある。作業途中の休憩室みたいな場所なのかもしれない。
その一帯から少し行くと、後ろや横に余裕があるように戦闘車両が停められている。
詰め込むためでなく、乗り降りしやすいよう、使いやすいようになっているのだと思う。
一番手前は戦闘用らしい無骨なトラックで、何台か向こうまで行くと見た目的に明らかに気質でない装甲付きの戦車が鎮座している。
トラックの向こうまで言ってしまうと姿も隠れてしまうし、音も聞こえにくくなっていくと思うのでその手前まで近寄っていく。空き時間に少し見て回る今のような時でなくて、本当に自由に探検していいならその後ろに回って戦車を見に行きたいんだけど、見張りの人に怒られる予感しかないから今は自重。
なにを隠そうこの私ははぐれて迷子をした経験ほどではないものの、勝手に探検して怒られた経験もまあまあ豊富だ。探検して怒られそうな場所の気配にも敏感なのである。
ほへーという気持ちでトラックを見物して、普通のトラックより下側の空間が広いなとか、運転席に上るときにはあそこに捕まるのかな、踏み台も二段階になっているな、とかそういう私にとって実用の役に立つ場面の無さそうな知見を蓄積していく。
「わぁ〜、できた〜!」
というぞっちゃんの嬉しそうな声が聞こえてきた。
振り向くと数歩の距離のところで、ハルカちゃんが出来上がったリボンをぞっちゃんに手渡し、ぞっちゃんはどこからか取り出してきたヘアゴムとヘアピンを使ってやちよちゃんにリボンを付けてあげている。
やちよちゃんがすごく嬉しそうにしているので、「はーい! じゃあ、また三人で写真撮るよー」と声をかけて近づいて行き、やちよちゃんとぞっちゃんとハルカちゃんの三人のアイドルポーズの写真を撮る。
ふたりとも、最初の挨拶のときとは違うポーズ。
さて出発だ。
撮影に付き合ってくれる戦闘部隊の三人は、視線で清水さんに確認をとって、さっき見た通用口の方に移動していく。三人とも銃を持ってフル装備。重そうなドアを押して開けてくれた。
どうぞという感じで待ってくれているのだけど、非常に物々しい。
気持ちとしてはこれまでと同じくふらっと歩いていくぐらいのつもりなんだけど、こうも厳しい出で立ちで居られるとなんとなく心配になってしまう。実際は絵的に緊張感が出るから撮れ高的にありがたいという言葉もあったし、清水さんからは、まぁこれまで以上の危険はありませんという説明をされているのだけど。
念のためやちよちゃんにそうなの? と確認したら、まぁ大丈夫だそうな。
「そもそも前回の襲撃からは時間も経ってるから、時間切れでTOXはもう動いてない。だから護衛なんて必要は無いんだけど、清水が言うには教団にも理由があるんだ」
「え? ああ、外の人も見る番組ですから、好き勝手動けると思ってもらいたくないんですよ。私達にはそれを取り締まることも保護することもできませんけど、時期を間違えたら死にますし」
なんとも清水さんらしくない雑駁な喋りだ。
違和感はあるけど、部分的には事実なのだろうと思う。
あまりにもらしくないので、おそらく他にも言いたくない理由があるのだろうと察する部分はあるんだけど、別にそれを探り出すのが目的な訳ではないから説明通り受け取ればいい。
これが理由のうちの言いやすい部分だけだとしても、嘘ではないだろうし。
そうして首をひねっていたら、やちよちゃんが「私が無防備で出歩くと怒られるんだ」とこっそり教えてくれた。
重要人物だなぁ……。
あ、そういや教主だったか。
……やちよちゃんが身分を隠したくなる理由がだんだんわかってきた。




