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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
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……8月1日(月) 10:00 七日目:撮影・新宿駐屯所出口

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「あー、リボンですかー、可愛らしくねいいですねー。でも、もうちょっと待ってください。出発の合図をしますので、その後で。その時には映像にも収めますので。はいじゃあ佐々也ちゃんさん。ここはどこだか教えて下さい」

「ここは抗生教の新宿教会、防衛部隊基地の最上層にあるガレージです」

 これは私のセリフじゃなかったはずだけど、セリフじゃなくてもどこなのかぐらいはさすがに分かる。

 ここまでの映像の流れで、台本とは問いかける相手を変えたほうが良かったんだろう。

 これまでもよくあったことだ。そういえば、私がぼんやりしている間に私のセリフだった部分もあったけど通り過ぎちゃってるし、やちよちゃんのことは台本に無かったから絶対にどこか変わってるってのもある。

 とにかく、ここはガレージ。

 新宿の戦闘部隊の屯所の最上階にある、車庫兼物置兼出入り口みたいな場所だ。

 映像の背景は、車両の出入り口になっている重厚なハッチ。

 私達の向かいには、大きくて無骨な戦闘車両が並んでいるのが見える。

 人影は皆無に等しくて、あえて数えるなら本日の撮影に護衛として付き合ってくれる戦闘部隊の三名ぐらいしか居ない。

「はい、佐々也ちゃんさん、回答ありがとうございました。ここは地中ですがかなり地上に近い上の方なんですよ。それで、実際に戦闘部隊の方々が出撃する時には、ここにある戦車に乗って、皆さんの後ろの扉から上に向かって出て行くんだそうです。周りには武器なんかもあるしで僕もなんだかちょっと強くなったような気持ちになってきました」

「私も!」

 ホントはそんなこと思ってないんだけど、台本では前のセリフとこの部分がぞっちゃんだったので、まぁセットなんだろうと思って言っておく。

「え〜っ! さーちゃん、私のセリフ取っちゃやだ〜」

「あれ? いまのって私が言う流れじゃなかった?」

「は〜い! 私も! 私も強くなったような気がしま〜す!」

 ぞっちゃんは私でもよれひーさんでもなく、カメラを見てアピールしている。

 ここは謝罪の意味を込めて、ぞっちゃんに同意しておきたいと思う。

「そうそう。私よりぞっちゃんのほうが強そうだよ。背も大きいし体力もある」

「あ〜っ! またぞっちゃんって言った!」

 うわっ。めんどくさい方のぞっちゃんだ……。

「ごめんごめん。ぞ……じゃなくて、みーちゃんだったねそう言えば」

「もー、またそうやって言うんだから〜。いまじゃコメントでもみんながゾミーちゃんって呼ぶんだよ?」

 ぞっちゃんの口から、コメントで時々見かける非公式のあだ名が出てきてびっくり。

 私はやちよちゃんに教えてもらったんだけど、あまりにもゾンビっぽくてちょっとどうかと思ったんだよな。もちろんそんなことをぞっちゃんと話したりはしてないけど、まさかいくらなんでも自分から持ち出してくるとは思わんかった。

 驚きで頭がぐるぐるしてしまい、ちょっとの間絶句してしまう。

「……え!? 自分からその名前出しちゃうの!? そんなことすると本人公認みたいになっちゃうよ? 早まったら駄目だぞっちゃん! そっちに行くと引き返せなくなるぞ!」

「あ〜っ! また呼んだ!」

「あっ、ごめん。悪かったよ、ぞ……みーちゃん」

「……みーちゃん可愛いって言って?」

 私とぞっちゃんのやり取りを横で見てたやちよちゃんが、「あっ、これ見たことある!」と言って喜んでる。

「えっ!? またやるの?」

「いい機会だから初心に帰っておこうと思って」

「ああ、なるほど……」

 この場のテーマに合っている。実に合理的な理由付けだ。

 納得してしまったので、付き合わないわけには行かない。

「みーちゃん可愛いって言って!」

「あー、うん。ぞ……みーちゃんカワイイよー」

「まだ余計なのが入ってるよ? もう一回言って」

 そう言いながら耳に手を当てて待つぞっちゃんをとりあえずおいて、私は小声でやちよちゃんに呼びかける。

「やちよちゃんも一緒にやろう?」


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