……8月1日(月) 10:00 七日目:撮影・新宿駐屯所出口
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
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何故狙われるか……。
こんなにも普通なんだから、そんな私をやっつけたところで今後の侵略が捗るなんてことはないだろう。
ゴジが言ってたアラーム音の喩えが正しいとして『なんか五月蝿くて気に障るから』ぐらいの理由で狙われてるんだったら辛いよなぁ……。
気を取り直して。
そもそも、TOXのことはここ五千年のこの地球全体の課題なんだから、私がすぐに理由を突き止められるわけはない。地球全体の将来を担う大きな課題の、新しい切り口が私の手に入るだけだ。
なんでそんな重要なことがよりによって私に……。
やっぱりそういうのは私みたいな普通の人が握るんじゃなくて、なんか特別な感じの人が握る方がしっくり来ると思うんだよなぁ。
そういう役目になってしまったのは巨大な不幸であるような気もするし、地球の将来が私の双肩にかかっているのかぁと思えば晴れがましいような気もする。
とはいえ仮に狙われているのが私だというのが本当で新しい切り口が手に入るとする。
でも実際に地球の未来をどうにかしていこうとしたところでですよ、その先のビジョンとしては、切り口が新しいだけで証拠らしいものを観測もできなければ目に見える形で提示もできないわけだから地球全土の今後の課題だとしても扱いにくいだろうし、その上でなにかのアクションをするにしても上手く提示できなくて手伝って貰える人を探すのも一苦労なのは分かりきってるんだよ。
そういう時にも私じゃなくてやっぱり特別なところのある人のほうが、なんとなく信用されやすいというか……。
「佐々也ちゃん?」
「……え? あれ? はい?」
「またぼーっとしてた?」
「……うん、してた。……ちょっと、地球の将来のことを考えていて」
「どういう考えになりましたか?」
カメラの前だったので、寝ぼけた反応もよれひーさんに拾われてしまう。
「うーん、TOXがどうしたいかを探るのが重要なのかと……」
「それが分かれば苦労はないんですけどね」
「それはそう」
と、ここで私が正面を向くと、清水さんの隣にやちよちゃんが居た。
「あれ? やちよちゃん?」
「あ〜。さーちゃん、そこからだったか〜」
私がトボけた声を上げると、ぞっちゃんがツッコミを入れてきた。
「ええ。今日は外に行くのでそのガイドをしてもらいます。TOXの居所を察知することにかけては東京でも飛び抜けた実力を持った方ですから、今回もお願いするのが良かろうということで」
「今度は居なくならないでよ」
せめてなにか言わねばと思って、やちよちゃんに向けて憎まれ口を叩く。
「その件はもうやりましたから、いまは省略でお願いします」
「あ、そうですか」
これは私が悪い。もう黙って成り行きに従うことにする。
「佐々也ちゃん、この前持って行っちゃった布持ってきたよ」
そう言ってやちよちゃんが手に持っているのは、例の白と水色と銀色の布。
「あ、そう言えばそうだね。今日も一緒に行くんでしょ? だったらつけときなよ。終わる時に返してくれればいいから」
「そう? じゃあどこにつけたらいい?」
私はそういうことに対するアイディアは無い。
気が散ってしまうので、装飾類は可能な限り身に着けたくない方の人だからだ。装飾品に対するそもそもの関心が低い。
「ハルカちゃん、なんかアイドルっぽいの考えてあげてよ」
「……うん。じゃあ、リボン作ろうかな」
「え? リボンなんて作れるの?」
ハルカちゃんの提案にやちよちゃんはすごく嬉しそう。
「できるよ」
「え〜、……私も興味あるな〜」
ハルカちゃんの言葉にやちよちゃんが思いのほか目を輝かせる。
ぞっちゃんも興味あるそうだ。
私はない。
そういうことを覚えられた試しがないし、覚えたとしても不器用で上手くは作れないだろうという確信がある。よしんば作れたとしても、余計な装飾を自分で身に着けたくはない。繰り返しになるけど、装飾品に対するそもそもの関心が低い。
……思いのほか強固な意志で興味が無いな。
徹底的に抗おうとかではないんだけど、我ながら取り付く島がない。
「あー、リボンですかー、可愛らしくねいいですねー。でも、もうちょっと待ってください。出発の合図をしますので、その後で。その時には映像にも収めますので。はいじゃあ佐々也ちゃんさん。ここはどこだか教えて下さい」




