……8月1日(月) 10:00 七日目:撮影・新宿駐屯所出口
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十五章 旅は終わり、終われば家に帰る。辞書にもそう書いてあったし。
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ぞっちゃんは出番があるのが嬉しそうな演技。
まぁ本心でも嬉しいんだろうと思う。
私はそうでもない。
私が東京へ来たのは、大まかに言うと幹侍郎ちゃんの身の安全のために伝手を作ることが目的だった。ホントはこんなに言語化されておらずもっとぼんやりした目的意識だったんだけど、振り返って言葉に直すとこういうことだ。そして、やちよちゃんと知り合いになったことでこの目的を果たすことができたような気がする。だからもう当初の目的という意味では東京に居る意味はあんまりない。
ところがやちよちゃんと知り合いになったことで、目的外の結果として『私が居るところがTOXに狙われやすい』という衝撃の告知をされることになった。これが本当らしいのかと言われると、いまのところまだ信じられない。とはいえ嘘だといって真実を提示するための根拠もないし、どちらかといえば本当であるほうが幹侍郎ちゃんにとって都合がいいからその方が良いかもしれないんだけど、そうは言っても何故わたし? という気がして釈然としないものはある。
うーん。やっぱり信じられている気がしない。
そもそも私にはこれという特徴もなく能力があるわけでもなく本当に普通。
というか場合によっては飛び抜けてどんくさいぐらいで普通以下かもしれないぐらいなんだけど、これでどうして私がTOXに、という思いが浮かぶのは避けられない。不当・不公平・プラスはないのにマイナスだけかよみたいな苦情を言いたいというわけではなくて、ただもう飲み込めないのだ。そういう劇的な役割って、なんというか特別な感じのある人が担っているものじゃないかなという気がするのだ。しかもなんというか、周囲の知人を見渡すと具体的に思い浮かぶところがあるというか。
なにしろ私の知り合いには、『ダイソン球殻の外から来た金属生物』とか、『巨大ロボットの子供』とか、『高階者を探すイルカ』とか、『会津の白虎として遠くの土地でも噂になる獣人』とか、『地球の意思が分かる巫女』とか、そういう人たち(人じゃないのも多いけど)がやたらいっぱい居るのだ。
このラインナップでなんで私?
実際に標的にされているのは、私自身じゃなくて、私の周りのコンプレキシティ(叡一くんによる説明)とか線(やちよちゃんによる説明)らしいということだから、何かの特別さがトリガーになってTOXの襲撃を誘発しているわけではないらしいから、また少し違うのかもしれないけど、それでなにかが納得できるわけではないんだよな……。それを洗い落とすとか外すとかできるのでなければ、私自身が狙われているのと結局変わらないし。
第一その要因になっているというコンプレキシティと線のどっちも私には見えないから、説明されたとしても具体性という意味での実感の足しになるわけでもない。
というか、そんな見えもしないようなものを狙ってTOXは地球をどうしたいんだ?
いや、TOXなり高階者なりには見えてるっぽいのか。
とりあえず気を取り直して、当面の私の心の持ちようとしては、自分自身が狙われてるかどうかを信じるにしても信じないにしても、次の襲撃の時に幹侍郎ちゃんと別の場所に居ることにしようと思っている。それだけでなにかの充分な判断材料になるとは思わないけど、それがほんとかどうかの判断の一助にはなるわけだし、少なくとも幹侍郎ちゃんの方にTOXが行かないのであれば狙われているのが幹侍郎ちゃんではないことが分かるので、彼の身の安全という当初の目的には役立つ。
で、それでTOX襲撃が幹侍郎ちゃんより私らしいということがひとまず目処がついたら、本当に私が狙われているかどうかとか、私(の周りのコンプレキシティ)が狙われているとしたら、なぜ私なのかとか、なぜそれが狙われるのかというのを今後の課題にすればいいのだろう。
何故狙われるか……。
こんなにも普通なんだから、そんな私をやっつけたところで今後の侵略が捗るなんてことはないだろう。
ゴジが言ってたアラーム音の喩えが正しいとして『なんか五月蝿くて気に障るから』ぐらいの理由で狙われてるんだったら辛いよなぁ……。




