……6月21日(火) 16:40
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
天宮さん自身は、恒星間種族となった太陽系人類の先遣隊として送り込まれた銀河中心方面への調査というか冒険旅行というか決死隊というか、そういうものなんだそうな。高次元方向に折りたたまれた知性を載せて、行った先で適当に成長する目算でばらまかれた無数の胞素体のひとつ、みたいな。人類とは生命のあり方も違うし、高次元方向への情報の折込みもできるので、ある程度の調査をして知識を蓄えた状態で人類世界へ返す。上手く帰れなくても、人類が次に来たとき拾うための目印をつける、そういう存在だという。なんでそんな帰る宛のないような冒険に出たのかと聞いたら、その決断をしたのはこの天宮さん本人ではなく彼女の本体で、その人は普通に元の世界で暮らしているんだとか。人間に例えて考えるのが不可能な決断という感じで、これは本格的だと感心してしまった。
本格的に、なんだろう? 『人外っぽい』とでもいうか。
「まさかこんなところで行方不明の地球と遭遇するとは思わなかった」と天宮さんは言っていたけど、そりゃそうでしょうね。「本当に本物の地球かどうか、今のところまだけっこう疑ってる」だそうだ。私はそんなことを疑ったこともないので証明できないというか、なにを根拠に証明できるか考えたこともない。「そうかもしれない。私にもわからないし、もしかしたら偽物なのかもしれない」と正直に答えたら「えっ!?」とゴジが驚いていた。普通は疑わないところだったようだ。
天宮さんの話は全体的に壮大過ぎて、話を聞いてもまるっきり入ってこない。ちょっと気になるところがあっても、頭の中で整理していると考えが横道に逸れてしまう。野生の知性ってどういうこと? ナノテクノロジーじゃないの? 高次元方向への情報の折込って何?
それで、その間に話が先に進んでしまう。
突いてやろうと思っていた矛盾点なんてそうそう思いつくものでもない。
そういえば天宮さんの体を作る銀沙というものの話の頃、ゴジが急に考え込むようなおかしな素振りをしていた。あれはなんだったのか。銀沙というのは要するにそういう名前のナノテクノロジーのことなんだろうけど、なにか似た設定のゲームでも遊んだのかな? 話の最中にあんまり関係ない連想とか妄想が浮かんでしまって上の空になってしまうことって私にもよくあるから、あんまり追求しないでもよかろう。いまはゴジのくだらない妄想より天宮さんの話を聞くのが優先だ。
しかしまぁなんというか、確かにフィクションみたいな話ではある。
川原でのほほんと聞くには随分と手の混んだスケールの大きな話で、読んだマンガとか遊んだゲームの話をしてるのとなにが違うか分からなくなってきた。天宮さんは本当だと言っているし、私にはぱっと矛盾を口に出すこともできないんだけど、よくできたフィクションの設定ってそういうものだからなぁ。
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6月21日(火)
18:10
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ここまでだいぶ話し込んだので、そろそろ暗くなってきた。
もう帰るべきなんだろうけど、フィクションと現実の区切りがなんとなく曖昧になって、なんというか地球の運命を背負ったような気分になっているので家に帰ったりして良いのかちょっと不安だ。
いや、現実として考えるとご飯前には帰りたいところではある。
次回の登校日は二週間後なんだけど、いまここでじゃあねで別れて二週間後にまた会おうという感じでもない。できれば明日にも会いたい。
「天宮さん、家は? どこ住んでるの?」
「家? 拠点のこと?」
「拠点……。まぁ、そうかも……」
「決めてない。というか、別に無くても大丈夫。本来はもっと過酷な環境にいるはずだったから想定よりかなり快適な状態だし、なんなら拠点なんて別に無くても……」




