8月1日(月) 10:00 七日目:撮影・新宿駐屯所出口
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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8月1日(月)
10:00
七日目
撮影・新宿駐屯所出口
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|よれひー探検隊・ウィズ・レザミ・オリセ
|よれひー探検隊ついに東京の最深部へ!
|レザミ・オリセの三人は最後の旅でなにを見るのか! 乞うご期待!!!
「はい、というわけで、本日はよれひー探検隊、最後の探検になります! 最後なので、僕も今日は久しぶりに画面に映っての参加ですよーっ! みんなー!僕の顔覚えてるー?」
「そう言いながら、けっこう映ってたじゃないですか」
この冷静ツッコミはハルカちゃん。クール系なので冷静なのだ。
お決まりの台本挨拶。
台本挨拶の良いところはスイッチの切替ができることと、少なくとも会話が途切れないことでリズムを作り出せるところ。アホなことをしているように思えなくもないけど、実利的な効用もあるのだ。
今日の私達レザミ・オリセの三人は、初日に着ていた例の銀と水色の派手でトンチンカンな『衣装』だ。
最終日なので、せっかくだから正装でということらしい。
……正装なのこれ?
色味が派手すぎて普段から着て歩けるような服ではないけど、実は動きやすい。汚れてしまうというデメリットもあるのだけど、東京の最終日だからここで着ないと機会がなくなるということで着ることになった。
自分たちで選んだ可愛い服だということで、他の二人はこの衣装を着るのも嬉しいらしい。
私は、どうだろう?
嬉しいかな?
おめかしと言われるのでなんとなく周りにつられて浮ついた気分を味わっているとは思うけど、おめかしの関連ワードを頭に思い浮かべようとすると「汚す」とか「ツッパって動きにくい」とかそんな感じで、浮ついた気分に対応する部分がない。おそらく、周りにつられて根拠のない気分だけの浮つきを味わっているんじゃないだろうか。
ただまぁ、浮ついているというのはもともとそういう意味の言葉ではないかという気がするから、私は存外正しい意味で浮ついているのかもしれない。人はこういう気分を学習することでお洒落をすることに楽しみを覚える人に育っていくのではないかという気がする。
こういう気分自体は楽しいので報酬として機能して、その行動を取りやすくさせるのだったかな。
こういう動機づけの学習における報酬の代表的なものはお菓子をもらえることなんだけど……なんか聞き覚えがあるな……。ぞっちゃんよ……。
なんとなく目の上に縦線が入っているような気分になっていると、よれひーさんが導入の挨拶を続けるのが聞こえた。
「あ、皆さんせっかくの最後の探検に正装で参加してもらってありがとうございます。せっかくだから皆さんでレザミ・オリセのポーズ、やってみてください」
ポーズなんて無いよ! と反射的に思うけど、ここは台本なので事前に打ち合わせをしており、実はポーズを決めている。
私達は息を合わせて、ここでよどみなく打ち合わせ通りの掛け声とポーズを決めて見せる。
「は〜い! わたしたち〜、レザミ〜・「「オリセでーす!」」」
ぞっちゃんは中央でカメラに正対して両手を広げて迎え入れる感じのポーズ。ハルカちゃんは向かって右で横顔を生かしたクールな感じのポーズ。私は向かって左でサムズアップを生かしたお子様も真似しやすいファニーで簡単なポーズだ。
「はい可愛い! ありがとうございまーす」
一拍おいて、ポーズはここまでの合図をよれひーさんが入れてくれる。
「でも〜、最後の探検ってことは〜、私達は今日でお別れになっちゃうんですか〜?」
これはぞっちゃん。歩いてカメラに寄って悲しそうな演技。
「それはまだまだです。東京から帰る時も撮影しますし、最初の予定の残りの期間は大宮でも番組をやれたらいいなと思ってますので、そこにレザミ・オリセさんも参加して貰う予定で居ますから」
「やった〜! まだ出番があるんですね!」
「はい、そうでーす。よろしくでーす」
「は〜い」
ぞっちゃんは出番があるのが嬉しそうな演技。
まぁ本心でも嬉しいんだろうと思う。
私はそうでもない。




