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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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……7月31日(日) 10:00 五日目:池袋地下居住区画・録画撮影

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。


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「えーと、ビルの根元の方と言うと……、一階とか二階とかですよね。そこも一緒に壊れずに残ったということですか?」

「そうですね。この周辺の建物は四十階建て、五十階建てなんてのが並んでいたらしいので、下の方と言ってももっとたくさん残っただろうと思いますが、そうです。あと、壊れずにではなくて、建物の床や壁が壊れても空間が残ったような場所の方が多いと思います」

「背の高いビルなら、建坪も広いでしょうね、確かに。だから更に空間が広いのか……。他の場所にはそういう、下の方が残っている大きい空間はないんですか?」

「埋まっているのはクレーター丘陵の下ではどこも同じなので、同じような広い空間はいくつかはあります。ですが新宿は街道から地下通路で行ける場所であり、かつ大きな建物であるというふたつの条件を満たしていますので特別です。そのため工場を設置する場所に選ばれたと伝えられています。大きなビルの遺跡と言えば例えば渋谷や品川埠頭、あとは昔の池袋にも大きな地上遺跡があったらしいのですが、埋まらずに風化して壊れたりもしてます。とはいえ個別の空間としては新宿ほどの大きな空間がたくさんあるわけでもなければ、行き来しやすいわけでもないんです」

 申し合わせが無い部分でもちょっと感想を言うと清水さんが教えてくれる。

 お手数をかけてごめんなさいとも思うけど、とてもありがたい。

「教えてくれてありがとうございます。えーと、ああいう地下鉄みたいな交通網があったんだから、どこにでも同じぐらい大きな建物があったのかと思ったらそうでもないんですね」

「大きな建物自体はいろんなところにあったようなんですが、そういうものの多くのものは最初の攻撃で壊滅したクレーターの内部だったらしくて跡形もないんですよ」

 そういえば東京のクレーターについて説明を受けていた。

 中央にある今は湖となった部分がおよそ半径三キロ、その範囲は地面が抉れて地上も地下もすべてのものが吹き飛んだ。そこから更に距離にして三キロほどのクレーター。クレーターの下は街道の整備もそれほど熱心には行われていないそうだ。なにしろ上が土の山だから、住人が少なくて、整備する利益があんまりないんだとか。

「……そっかクレーターのこともあったんだった。だとしたら一番の街だった新宿が攻撃の中心から外れていたのはよっぽどの幸運だったんですね。それにしても……何千年も前の街の姿なんてちょっとやそっとじゃ思い浮かばないよ。そもそも何百万人の人が同じところにいて生活しているのがどういうことなのか上手く想像できない。それだけ集まれるだなんて、昔の人も同じ人間なのかって思っちゃう」

「……人がものすごく多かっただけで、人間はいまとそれほど変わらないと思うよ。当時も人が集まりすぎて窮屈な思いはしていたらしいから」

 こんどはハルカちゃん。土地の知識の話じゃないから、清水さんはスルー。

「窮屈なら集まらなきゃいいのに」

「それを上回る利点があったってことだろうね」

「……きっとそうなんだろうね。私にはその利便がちょっと思い浮かばないだけで」

「実際に同じだけ集まれるようになったらすぐに分かるんだろうと思うけどね。大きな街には好みのものを売ってるお店が多いから便利、とかの簡単なことで。昔も今も、同じ人間には変わりないんだから」

 人が集まる利点、私はあまり思いつかない。

 便利なお店があると言っても、結局いちばん品揃えが豊かなのは通販だろうと思うし。

 でも、私は特に対面コミュニケーションが苦手なタイプだから、利点を思いつかないのはそのせいかも。

 ぞっちゃんのように人に会うのが好きな人は、それほど特別な理由がなくても沢山の人に会うために集まりたいと思うのかもしれない。私は窮屈なのがものすごく苦手だけどたぶん人類でも上位の窮屈嫌いすぎな方に入るとは思うので、それに我慢できる人だって少なくないのかもしれない。(私は絶対に無理だろうと思うけど)

 「同じ人間には変わりないんだから」なんてことをハルカちゃんが言ってたけど、私はいきなり人間同士で分かりあえないことを考え出す上に、ハルカちゃん自身は人間じゃなかったりしてなかなか味わい深い。

 それにそもそも、集まれば分かるもなにも、集まろうとするとTOXに邪魔されてしまうのだから、ここでこんなことを考えてみたってほとんど意味はないんだけど。

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