……７月３１日（日） １０：００ 五日目：池袋地下居住区画・録画撮影
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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私達がそんな話をする間、車は粛々と新宿の町中を走っている。
町中と行っても地下は地下。
左右の窓から周囲を歩く人通りが見えるし、中には好奇の視線を向けてきている人もいた。とはいえ道を遮られることもなく、露骨に目を合わせてくることもなく、街道を走った時よりもさらにゆっくりではあるけど、スムーズに車は通行できている。
周囲を見ると宿場からここまでだんだん様子は変わっているけど、どこも概ね道沿いの壁に扉があって、壁の中に施設が埋め込まれているような普通の地下街っぽい作りになっている。池袋の地下の居住区といって番組で見せてもらった場所は道と壁の感じがもうちょっと自由というか「広場の中に建物を作って余りの部分が通り道」のような構造だったけど、新宿では「もともとの地下道の壁に部屋が埋まってるんだろう」という様子だ。
この推測が正しいかどうかはともかく、少なくとも新宿のほうが全体的に道が広めだったり、壁が全体的に真っ直ぐだったり、曲がり角がきっちりしたりという違いはあるような気がする。
この道は町中と呼ばれているだけあって、人通りが多くて賑やかだ。
街道のときのように気軽に声をかけたりすると車が囲まれて動けなくなるぐらい人が集まってしまうような雰囲気があるし、それが心配になるぐらいの人数も居る。
よれひーさんのカメラは、今は清水さんのガイドを素直に聞く感じの撮影をしている。
車は街道からスロープを上り、広めの地下通路の壁に煤けた街並みが埋め込まれている感じの市街地を通りぬけた。
そのまま少し走って、ストンとしていて壁に町並みのあまり無い一本道に出た。
「これが、さきほど言っていた、街道でない地下通路遺跡です」
この道自体は長いものではなく、車で数分も走ると門があった。
「はい到着しました。ここに停めてください。本日の宿はここ。この周辺は抗生教の教会となっています」
出た、教会。
「教会ということは、お祈りするところがあるんですか？ 神社的なものは無さそうに見えますが」
無いらしい、というのはやちよちゃんから聞いてるけど、その辺の知識をみんなと調整するために聞いておく。
やちよちゃんは説明が上手くないから、詳しくは分からなかったし。
「あー、私達は宗教組織なのでお祈りをするところも統括しているのは間違いないんですが、教会というのはそういう意味ではないのです。他の組織に例えたら『支部』ぐらいの意味ですかね」
「そういうことですか」
一瞬でわかりやすくなってしまった。
「細かいニュアンスの違いなんかはもちろんあるんですよ。教会と呼ぶ場合どちらかと言えば場所というか建物を指す言葉であるとか、そういう」
「新宿には教会とは別に戦闘部隊の屯所があるとも聞きましたが」
「別にではなくて、一緒の場所です。というか新宿の教会の主な役目はどちらかというと教団の物資のための工場で、その工場がＴＯＸに狙われやすいので守備のために戦闘部隊がいる感じです」
そう説明されると分かりやすい。
清水さんは説明のためにものごとの順番を整えるのが上手だ。なにか理由があるのか？ と一瞬思ったけど、そういえば広報係の人なので、それが仕事なんだわな。
私の思考が脇道にそれている間に、ハルカちゃんが質問を続けていた。
「なぜ池袋でなく新宿に工場を？ 池袋に工場があると本部がＴＯＸに狙われやすいからですか？」
「いえ違います。そういうことではなく、新宿のこの周辺には大きな地下空間が多くて工場を設置するのに都合が良かったからだと聞いています」
「大きな地下空間？」
私はこれで大きな地下空間にはだいぶ馴染みがある方なので、これは楽しみだ。
いや、馴染みがあるだけで別に詳しいとかではないんだけども。
「でも、なんでこの辺には広い空間が多いんでしょうね？」
「繰り返しになりますが、まだ一帯が埋まる前の太陽系時代には東京は地球でも最も人間が集まる場所の一つであり、この付近はその中でも最も賑やかな――というか人間が地球上で一番たくさん集まっていると言ってもそれほど間違いでないぐらいの――場所だったので、集まった人達を入れるための大きな建物が多かったらしいんです。その建物はもう殆ど残っては居ないんですが、土を被った時にビルの上の方は折れてしまったりしたものの、下の方は元から地下だった部分に加えて、地上でも根本に近い部分の数十メートル分が土に埋まったんですね。つまり、元々は地上だったけどクレーターができた時に地下になってしまった部分というのがあるんです。元々が大きい建物だったので、そういうついでみたいな部分も広いんです」
わかる、ような、そうでもないような？
「えーと、ビルの根元の方と言うと……、一階とか二階とかですよね。そこも一緒に壊れずに残ったということですか？」
