……７月３１日（日） １０：００ 五日目：池袋地下居住区画・録画撮影
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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「それが実は池袋と新宿の丸ノ内街道は繋がってないんですよ。途中で埋まってしまっていて……」
「……あー、なるほど。この短い間でも埋まってるような場所もあるんですね」
丸ノ内街道が上の階にあるということは、地下としても地上から近い方だということでもある。地下遺跡でも、地上に落ちたＴＯＸの衝撃で崩れてしまったりすることもあるのだろう。
私がそう言って納得したら、ハルカちゃんが慌てた様子で割り込んできた。
「待って佐々也ちゃん。誤解がある気がする」
「誤解って？」
「埋まってる場所って、たぶんクレーター。出てくる時、行き止まりの後ろから真っすぐ進んで来てるでしょ？ 丸ノ内線って池袋終点でこっちとは反対に進んで行って旧来の東京の中心部分を一周りして新宿の先に抜けていく電車だから、清水さんが言ってるのはその旧来の中心部分が埋没してるってことだと思う」
考えてみてもよく理解できない。
新宿と池袋はいわば隣町で、新宿がクレーター丘陵に埋まってるとはいえ町の間にクレーターはないはずだけど……。
「ん？ どういうこと？」
「うーんと、池袋と新宿ってだいたいすぐ隣なわけだけど丸ノ内線が走ってた経路をアルファベットの∪に例えてみると、∪の時の右側の上端が池袋で、左側の上端が新宿に当たるのね。いま通ってきた副都心線はこの二つを直接繋いでるけど、丸ノ内線は∪の字沿いに通ってるから直接行き来できないし、埋まってるのは∪の字の下側の湾曲部ってこと」
文字通り∪の字の上端の二箇所を池袋と新宿に置いた姿を思い浮かべる。
∪の字の下側の湾曲部が余って他所に行く形になる。
この∪の字の湾曲部が、クレーターの下まで続いていてそこが埋まってる……。
なるほど分かった。迂回した先が水の底なのか。
分かったけど、具体的な姿としては思い浮かばない。
「……ああ、そういうことか。でも、地下なんだから山があるわけでなし、便利なように道を作ればいいのにわざわざ遠回りして∪ターンで元の近くに戻ってくるなんて、太陽系時代の昔の人も変な道を作っちゃったもんだね」
「さっきも言ってたけど、東京は地球の人口が百億に近かった時代でも世界有数の本当の大都会だったんだよ。電車の路線もすごくたくさん、それこそ網目状になるぐらいあって、なんとなく思ってるのと別というか、宿場同士が近すぎるように思ったり、遠回りしているように感じたりするのも、当時の人達にとって便利な、それだけ混雑してる場所じゃないとわからない、思いもよらないような使い方をしてたんだと思う」
理路整然としている。そのことになんとなく負けたような気分になってつい出てしまった減らず口だったのを、更に諭されてしまった。
「ほへー、なるほどなぁ。……こりゃ余計な事は言わない方が良いかもなぁ」
言われてみれば、たぶん本当にそうなんだろうとは思う。
けど、話を聞いたときの第一印象がいまの自分の感覚になっちゃうのはしかたなくないか？
不服な気持ちが表に出たのか、よれひーさんからフォローされた。
「……これはいちおう必要かもしれないので念のために言っておきますが、ぱっと見た瞬間に疑問とか感想を言ってくれるのは、番組を見てくれている人にとってはすごくありがたいことになりますから、佐々也ちゃんさんはこれまで通りで居てください」
「あー、はい」
別に褒められては居ないよな？
でも確かに、間違うのも私の役目ってのはその通りなんだよな。
「私はあんまりいろんなことに気が付かないから、さーちゃんはすごいって思うよ」
私が微妙な顔をしていたらぞっちゃんがフォローをしてくれた。いや、ぞっちゃんこそ、私ができないようなことを色々としていると思うんだが……。
まぁ、適材適所っていうことなんだろうか？
適材？ 適所？
私に適所なんてあるか？
ああ、間違える役目か。
十人十色とかの方がいいかな？
……まぁなんでもいいか。
そんなこんなのお約束みたいになった電車についてのやり取りの間に車はスロープを登って上の階に移動し、丸ノ内街道に道を変えていた。
なんだかずーっと電車の話ばかりをしている気がするんだけど、街道とか宿場というのが電車――のうち地下を通る地下鉄――の遺跡をまるごと利用したものなので仕方ない。街道から離れたら、電車の話はしなくなるのだろう。
「いちおうこの先、新宿三丁目宿場と新宿宿場のあいだが宿場同士を結ぶ街道としては全東京中で一番短い区間となります。さっきも言いましたが三〇〇メートルしかありません。そういう意味で名所ではあるんですが、ちょっと地味ですよね」
と、清水さんがカメラに向かって紹介をしているうちに新宿に到着。
