……6月21日(火) 16:40
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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宇宙観測は許されるけど、宇宙への迎撃ミサイルは破壊される。TOX襲撃の条件はやはり謎だ。
そういう感じでTOX襲撃とバランスを取りながら人類は生きてきた。
球暦のかなり初期の頃には、襲われるばかりでなく逆に宇宙に出ていってTOXと争うことを考えた事もあったらしいけど、先方の物量が圧倒的で手が出なかったらしい。そもそも敵はダイソン球を作った張本人かもしれない相手なので、物量は地球と比較した時には無限と言って良いぐらいであり、反撃も上手く行かない。TOXは何かが気に入らないと攻撃してくるんだけど、反撃ももちろん気に入らないらしくて攻撃してくるし、宇宙に出るための研究や、他の惑星と連絡を取るための努力も攻撃対象になっている。そもそもTOX側から「〇〇が気に入らないから攻撃します」というような意思表示があるわけじゃないから、たぶんそうだというぐらいの正確さなんだけど。
そんなわけで、人類はTOXに意思をくじかれたまま今日まで地球で生きながらえてきたという感じになっている。なんといってもダイソン球を作り、他にも惑星をコレクションしてくるぐらいの相手に対抗しなければいけないような話ではあるので、全く勝ち目がないということには納得するしかない、みたいなところはある。
一方で、それだけの実力差があるのに人間が生かされているということは、あえて殺し尽くすつもりはないという意味でもあるのだろうとも言われている。
なにしろダイソン球といえば、いくつかの惑星を合わせて恒星まるごとを包み込んでいる巨大な構造物だ。内側の直径で約十億キロ程度の人工(作ったのは人間ではないんだけど)球体。
地球の直径が約一万二千五百キロメートルで、地球の公転半径が約一億五千万キロメートル、直径にしても三億キロメートル。公転半径なんて地球の戦力にはならないんだけど、相手はそれより大きいわけでこれは流石に戦って対抗しようがない。
天宮さんに説明した地球が進歩してない話はだいたいこんな感じ。
全てにおいてTOXのせいみたいな感じだ。
TOXの側の意図は不明なんだけど、実力差がありすぎて意図がわからなくても仕方ないみたいな納得感はあるといえばある。
人間は物理的に集合できないと意外に発展できないのだというのは、天宮さんにとっては目新しいことらしかった。
天宮さんからは地球が居なくなった後の太陽系の話を聞いた。
地球が居なくなった後、その場所には同等の質量のブラックホールが現れて、物理的な影響は殆ど出なかったらしいことや、火星が太陽系社会の中心になったこと、地球消滅後にも順当に発展して一万年の間に複数の恒星社会を築いたこと、人類以外の知的生命とはまだ遭遇していないこと。人間以外の知性と言えば、天宮さんたちは太陽系のネットワーク世界にいつのまにか発生していた野生の知性が元で、その知性に『銀沙』という集合的に数百年単位の恒常性を獲得したマイクロマシンで体を与えるという形で人類世界から分枝したので、人類社会の範疇であることなど。
地球が居なくなった後、元の太陽系がどうなったかというのは私達の地球のファンタジー小説の人気テーマなので、よくわからないネタバレを食らったように感じるような部分はある。逆に言えばこの話を知りたい人は地球上にも多いはず。
でも、確かめようがないから、天宮さんの話がほんとかどうかはわからないんだよな。
私の話は今の地球上で確認が取れるけど、天宮さんの話はそれができない。繰り返しになるけど、幻覚能力者の嘘かもしれないという線は全然消えない。とはいえ設定は凝りすぎなほど凝ってるし、私のようなこれという取り柄もない普通の高校生を騙すんだったらもっと信じやすい嘘の方が良いような気はしている。大法螺を吹くのが楽しいだけの愉快犯の可能性もあるけど、その場合だとしてもターゲットに私を選ぶのは不自然だ。
まあ、それはいいか。とりあえずこれは考えても結論が出ない問題だ。
ひとまず確認が取れないのは仕方ないとして、ダイソン球の外側はどうなっているのかを聞いたところ、銀河中心にかなり近いんだそうな。そのままならば熱と放射線で人類は生きていられないぐらいという話で、ダイソン球は人類の保護にもなっている様子という話だ。私たちはダイソン球に閉じ込められて球殻の外を見ることもできないので、やっぱりこの話も正しいかどうか確かめることができない。
というか、ダイソン球やひいてはTOX関連のものが人類の役に立っている可能性を信じたくない、みたいな感覚がある。地球人が直近五千年で蓄積した強烈な憎しみだ。それは私にもある。
ここ二千年ぐらいはTOXに直接殺された人っていうのは意外と少ないらしいけど。