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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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……7月31日(日) 10:00 五日目:池袋地下居住区画・録画撮影

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「こう暗いとスピードも出せないよね。別に速く走る必要は無いんだけど」

「ライトを点灯しているならある程度は速く走っても平気ですけど、手押しの荷車なんかも車道側に居ますので、程々にしないとぶつかってしまいます」

 よれひーさんがナレーションのように喋っている間は返事がしにくいけど、普通の会話のように喋るときには返事をしてもいいらしい。これは別に予め取り決めていたわけではないけど、清水さんは当たり前のようにそうしている。

 車はゆっくりと、暗い街道を走る。

 少し離れた歩道側の灯火は暗く乏しく、柱の横を通ると隠れもするし、ゆっくりぐらいが安心ではある。

 道幅がこの車の倍あるかどうかぐらいの狭さなので、すれ違いも追い越しも難しい。

 単純に疑問に思ったので、清水さんに質問してみる。

「これ、対向車が来たらどうするんですか?」

「そもそも東京には車の台数が少ないのでたぶん来ないと思いますが……、もし来たらどちらかが歩道の方にはみ出してすれ違う感じになりますね」

「ああ、そういう……」

 東京の地下街道、物理的には単なるトンネルなんだけど、ここは私達が住んでいたところとはそもそもの交通ルールもかなり違う。すべてのものの作りも違うしルールも違う、それが全体的な不思議な感じに繋がっているのだと思う。

 実際、清水さんの解説通り車道側の交通は私達の車だけ。

 そして歩道側はまあまあ交通がある。

 自動車がそもそもけっこう珍しいということなので、遅い速度で通り過ぎるこの車も歩道側から割とじろじろ見られていたりする。

 ぞっちゃんとよれひーさんは撮れ高を稼ぐために窓から上半身を乗り出して歩道の人に声をかけたりもしはじめている。「なにしてるんですか〜」「私達は新宿に行くんですよ〜」「よかったら番組見てくださいね〜」と、楽しくおしゃべりをしたりして。

 こういうのは私にはできないので、素直にすごいと感じる。

 私はちょっと思いついたことを、横のハルカちゃんに小声で確かめてみた。

「もしかして、昔は歩道と車道の側に一本づつすれ違いの形で電車が通ってた感じ?」

「たぶん。……池袋の広場では広場の両脇に車道と歩道が分かれてたでしょ? 電車が通ってたときは行きの電車と帰りの電車が片方づつに停車できるようになってたはず」

 ハルカちゃんの言葉を頭の中で咀嚼(そしゃく)する。

 私が知ってる他のものと比較して考えると、宿場というのはやっぱり昨日思いついたような高速道路の中央分離帯みたいなところにバスの停留所がある感じなのだろう。中央分離帯にバス停があると道を横切る必要ができて出入りに不便なんじゃないかという気もしたけど、この街道のように走っているのが地下ならば出入りのときに確実に階段で上下移動しなければいけないわけで、そう思えばこれはなかなか合理的な設置方法なのかもしれない。

 なるほど道路の置き方や交通の様子ひとつとっても外の世界とこんなに違うし、一方で高速道路と過去の地下鉄のような共通点もある。見聞が広がるっていうのは、こういう感覚なんだろうね。


  *   *   *


 時間にして三十分かもう少しぐらい、自動車としてはかなりゆっくりめに走った。途中、あまり代わり映えのしないいくつかの宿場を通った。それぞれの宿場の台上は、どこも池袋ほどには使われている様子はない。(※注)

 目的の宿場に到着。

「ここが新宿三丁目宿場です」

 と、清水さんが紹介してくれる。

「三丁目? つまり新宿の宿場が広くて、ここはその一部ってことですか?」

「いえ違いますよ。新宿宿場とは三〇〇メートルぐらい離れている別の宿場です。だから別の宿場ではあるんですけど、例外的にすごく近い宿場にはなっています。平均だと一キロちょいぐらいなんですけどね」

「なんでそんな近くに……」

「以前も説明したかもしれませんが、太陽系時代の末期には東京は世界でも一番に近い大都市だったんです。その東京の中でも新宿はとりわけ人が集まって大きな建物も多い場所だったので、おそらく宿場がひとつじゃ間に合わなかったんでしょうね。この近辺は地下遺跡も広大ですし、たくさんの小さな宿場があります。さっきの宿場も東新宿という名前でした」

「ひえー」

 この辺のスケール感には何度も驚かされてしまう。

「あと数百メートルなら、ここで降りて歩く感じですか?」

「いえ、階を上がって丸ノ内街道に乗り換えて、新宿までの街道を車で行きます」

 丸ノ内街道? 聞き覚えのある名前だ。

 同時に素朴な疑問が浮かぶ。

「丸ノ内街道は池袋にもあったじゃないですか。ここで乗り換えるなら最初からそっちで来ればよかったのに」

「それが実は池袋と新宿の丸ノ内街道は繋がってないんですよ。途中で埋まってしまっていて……」

「……あー、なるほど。この短い間でも埋まってるような場所もあるんですね」

 丸ノ内街道が上の階にあるということは、地下としても地上から近い方だということでもある。地下遺跡でも、地上に落ちたTOXの衝撃で崩れてしまったりすることもあるのだろう。

注:副都心線の池袋〜新宿三丁目間を合計すると5.3km。

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