……7月31日(日) 10:00 五日目:池袋地下居住区画・録画撮影
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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駐車場から見えてる範囲のスロープを降り、ほとんど見た目上は丸ノ内街道の宿場のものと変わりない、細長い広場に到着。ここが副都心街道の宿場だ。
「実際に地下道を車で走ってみるとなかなか異様な感じではありますね。それでは、これから車に乗ったまま街道に降ります」
広場の台になっているところから道の上に張り出す形で前後両向きのスロープが作られており、そこから車が街道に降りた。
この構造だと単純に街道で宿場を通り過ぎる場合にもスロープを上り下りしなければいけないのだけど、どうしてるんだろうか。スロープが前後に付いてるから、登って降りるのかな?
車は歩いているよりは速いというぐらいの感じでゆっくり進み、待望の宿場の端っこを見ることができた。
もちろんそこには特に何もなく、高くなった台が終わっているだけ。それが宿場の端っこだった。清水さんが案内してくれなかった理由も分かった。(理由はわかったけど、私はその当たり前のものが本当にそうであるところを見たかったから見れて良かった)
台が終わった先はそれらしいものはなく、街道が続く。
車道と歩道にいちおうは分かれているものの、両方の間が壁になっているとかではなく、ところどころ柱が立っているぐらい。宿場では左右に分かれていた車道と歩道は両方同じぐらいの広さのまま続いている。
丸ノ内街道でもそうだったけど、この副都心街道でも電灯がぽつぽつ壁に灯されているのは歩道側で、車道側には電灯はなくて暗い。自転車とか荷車とかは自前の電灯を持って車道を走ることになってるらしい。
歩道を歩く人が車道にはみ出したりしないのかというのが少し心配になるけど、子供がふざけてとかでない限りあんまりないそうだ。そもそも車道側は暗いから、あえてはみ出すメリットも無いらしい。そして車道側の通行もそれほどはないから、事故の心配もそんなには無いそうだ。交通事故みたいなけっこう深刻な話題として聞いたつもりだったのに、ふんわりした回答でちょっとびっくりした。でも東京という場所ではそもそも交通事故というのがそんなに重視されていないのだろう。そんなに事故も起きないと言っているし、考えてみれば取り締まる警察も居ない。
私が生飲み込みな知識と眼の前の出来事を実際に見比べて知識の意味を遅れて感じ取って呆然としている最中も、よれひーさんは天の声を続けている。
「トンネルにしては暗いですね。照明も歩道側にしか無い。車道側は真っ暗で、自分たちの車のヘッドライトだけで進む感じになってます。普段車で通る道といろいろ違ってるので、不思議な気持ちになりますね」
よれひーさんは手元に要点だけを書いたようなメモを持っていて、それに合わせて文章を考えながら喋っている。
実はさっき私にこの役目をやらないかという打診があったのだけど、私がやると読んでいるのが丸わかりになってしまうので無事にお役御免となった。お力添えできなくて残念だけど、私は未知のものや想定外のものを見たときに飲み込むのが遅いし、その場合には考え込んで黙り込む。初めて見るものへの反応を期待されての打診だったろうと思うけど、そもそも向いていないのだ。
窓の外、今はもう池袋の宿場は背後に去ってゆき、車は街道の上。
歩道と車道は真ん中に柱がある中央分離帯のような場所で同じ幅で区切られていて、片方が歩道でもう片方が車道。それはずっと変わらず、中央分離帯のような場所が狭くなって車道と歩道が少しだけ近づいたかもしれない。
私の感覚だとこういう中央で別れている道は普通なら両側ですれ違いの二車線道路になってるものだけど、東京ではそうではなく片方が一車線の車道もう片方が同じ幅の歩道となっているわけで、これはたしかに違和感を感じる。
「こう暗いとスピードも出せないよね。別に速く走る必要は無いんだけど」
「ライトを点灯しているならある程度は速く走っても平気ですけど、手押しの荷車なんかも車道側に居ますので、程々にしないとぶつかってしまいます」
清水さんの説明。
よれひーさんがナレーションのように喋っている間は返事がしにくいけど、普通の会話のように喋るときには返事をしてもいいらしい。これは別に予め取り決めていたわけではないけど、清水さんは当たり前のようにそうしている。
携端の音声通話と対面の会話をそれぞれ別々に同時にしている場合があるけど、そういう時と似た感じなのだろう、たぶん。




