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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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……7月30日(土) 20:00 五日目:抗生教池袋宿所・通話

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「狙っているものがあるとすれば、線の方なんだよ。線そのものが狙われてると言うより、線が多いところを狙ってる。佐々也ちゃんにはその線がたくさんくっついてるだけあって、目的が佐々也ちゃんなわけではないし、線そのものはどこにでもありふれたものだから、佐々也ちゃんが狙われてるっていうのはちょっと違うんだ」

「……違いがよくわからない」

 そこにゴジが助け舟を出してくる。

「確認したいんだけど、その線っていうのはコンプレキシティのこと?」

 ゴジは私に聞いてるらしいので、まずは私が答える。

「……もしかしたら、同じものかも。でも両方に詳しい人が居ないから、本当に同じかどうか分からない。聞いた感じだと、まぁ似たようなもんとは思ったけど」

「そっか。……だとしたら、機械の警告音を探す感じに似てるんだと思うよ。探す方はどこから音が出てるかというかなにを探してるのかわからないけど、近づいたり遠ざかったりしてどこから音が出てるのか見つけるみたいな。中学の頃にどこかでアラームが鳴ってるのを探して、けっきょく深山の鞄から聞こえてくるのに気がついたことがあったよね。ああいうことだと思う。あのときは、鞄を開けるて中を漁るわけにもいかないから丸ごとロッカーに入れてしまったけど、なにが音を出してるか分からなくても探すことも対処もできるんだよ」

「……うん」

 ゴジの説明を聞いて、窓ちゃんは要領を得ないような顔をしている。

 私はなんとなくわかったけど、それは探される方じゃなくて探す方の視点というか、叡一くんのいう高階者(こうかいしゃ)の視点ではないかい?

「高階者側にしてみたらそうかもねって事かもしれないけど、私にしてみればあんまり役に立たない見方だなぁ」

 正直な感想を述べる。

 私はまだ言葉を続ける。

「それにしても、ゴジはやちよちゃんの話を聞いただけで、よく上手い例えを思いつけたね」

「ああ……それはね、なんで最初に幹侍郎のいる部屋にTOXが向かったのか、僕はずっと考えてたからだよ。佐々也たちが(うち)に越して来るまでは来なかったTOXが襲って来たのに、佐々也とか天宮じゃなくて幹侍郎の方に向かったのはなぜか。狙われたのは幹侍郎じゃなくて別のものじゃないかとか、コンプレキシティってどういうことなのかとか……」

「……そっか。そうだよね……」

 正直、ゴジは視野が狭いところがあるから、なんとなく困ってるのに精一杯であんまり考えてないような気がしてたけど、そんなわけなかった。私なんて最初にTOXが向かってたのも叡一くんが入りたがったのも地下室だったことなんて、すでに忘れてた。

 いや忘れては居ないか。忘れては居ないけど、もう気にしてなかった。

「じゃあゴジから見てやちよちゃんが言ってたのってホントっぽい?」

「そんなのわかんないよ。叡一くんはコンプレキシティが狙われてるかどうかも知らないみたいだったけど、やちよちゃんはそれを確信している。その違いからもうなんでなのかわからないし」

「それはそうだ。やちよちゃん、なんで線が狙われてるってわかるの?」

「地球がそのように知っているからだよ」

 不思議な感じのする日本語だけど、意味はわかる。

 でも気にはなるから言い換えてみよう。

「ガイアさんがそう思ったってこと?」

「そう言いたいならそうかもしれないけど、ガイアさんは間違えないから間違いかもしれない思い込みみたいなものじゃなくて、知ってるって言う方が正しいよ」

「ガイアさん?」 

「擬人化した地球さんのあだ名」

「あだ名とかあるのか……」

 簡単に説明したら身も蓋もなくなってしまってゴジに突っ込まれたけど、ここはスルー。詳しく説明しても面白くなる話ってわけじゃないし。

「こんな感じで、ほんとかどうかは私にもわからないけど叡一くんに言われたコンプレキシティの話と一致するようなところもあるから一定の説得力はあるし、TOXが私の方に来るならその方がいいから、襲撃の時には試しに東京に居てみようかなって思ってるんだ」

「……そうなんだ。……まぁその方が正しいかもね」

「考えてみたら、私がそっちに居てもなにかの助けになるわけではないし」

 私はなんの気なしに言ったんだけど、画面の向こうのゴジと窓ちゃんにはすごい緊張感が走った。

「え?」

「……佐々也ちゃん、そんなこと言わないで? みんな佐々也ちゃんに会いたいのに」

「あ、ごめん」

 窓ちゃんに悲しそうな目で訴えられてしまった。

「まぁでも、ものは試しってことで、TOXの時は東京に残ることにしたからさ」

「……うん」

 こころなしか窓ちゃんは物言いたげな雰囲気だけど、それ以上のことは言わずに首肯してくれた。


  *   *   *


 そんな感じで、あとはとりとめなく雑談。

 幹侍郎ちゃんとの会話も終わったから、あとは心置きなく思いついたことを喋るだけでいい。例えば番組のこと。「そういえば番組で別れた時のやちよちゃんの用事ってなんだったの?」「あれは関所で顔バレするから、離れたかっただけで別に用事なんてなかった」とか、さっき幹侍郎ちゃんとやってたサムズアップの話とか。

 「そういえば、私のことは秘密にしておいてね。コメントとかに書いたりしないでね」というやちよちゃんのお願いは、特に聞き返されたりもせずに一瞬で通った。

 そりゃそうだろう。

 ここに居る全員、秘密には慣れている。

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