……7月30日(土) 20:00 五日目:抗生教池袋宿所・通話
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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「そうだ、佐々也ちゃんの撮影はTOXの予定日にはどうするの? みぞれちゃんは大宮で番組があるらしいって噂に聞いたけど、佐々也ちゃんも同じ?」
ぞっちゃんの噂ってどういう情報経路なんだ? 集合意識の進化か? とかまた疑ってしまいそうになったけど、ぞっちゃん自身は学校の友達と連絡は取ってるからそっち経由とか、ぞっちゃんのお母さんお父さんから伝え聞こえてきたりすることは有りえるのか。
私がどうするかといえば東京に残るんだけど、言っても平気なやつだっけ?
「概ね。……そういえば窓ちゃんはTOXのときは同じように待機?」
「私は謹慎の一環で、今回は本部で予備隊側に入ることになるよ。でも、これまで二回もこの集落に来たから、今回は最初から防衛隊が折瀬の警備に入ってくれることになるって」
「だからここには危険はないはずなんだけど、万一またうちにTOXが来ちゃったときはどうやって隠そうかなって考えてる。今度は穴を埋めたりするほうがいいのかな……」
窓ちゃんに続いてゴジからも報告。
ゴジの家にTOXが来る心配をしているのか……。
そりゃするよな、でも心配いらないんだ。
話そうと思ってたことについて、ちょうどいい流れになったのかもしれない。
「あー、それなんだけどゴジの家にTOXが来る心配は無いと思う。その、東京で、地球の意思が分かる人からTOXに狙われてるのは私なんだって教えてもらった。ホントだって断言できるほど確信は持ててないけど、そんなに嘘っぽくもない感じだから、そっちではあんまり心配しなくても良さそうかも」
「はぁ? 地球の意思ぃ?」
ゴジがなんとも言えない声で聞き返してくる。
まぁ、分からなくもない。というか、本質的には私だって同感だ。
「話すと長くなるんだけど……、やちよちゃんって言う子が居て」
「え? 池袋に向かう時に途中で帰っちゃったガイドの子?」
「そう! その子なんだけど、ほんとはガイドじゃなくて……」
ということで、やちよちゃんのことのあらましを話そうとしたところ、誰かが私の部屋のインターホンを鳴らした。
「あれ? インターホン? そんなんあるの?」
思いついた疑問を、ついその場で口に出す。
「僕に聞かれても……。誰かが呼んでるんじゃないの?」
「そんなこと言われても、どこにインターホンがあるのかも……」
と言いながらドアの方を向いて気がついた。
入り口脇の洗面スペースのドアの手前、ライトのスイッチなんかが色々あるところにインターホンがついている。カメラとモニタもあるようだ。
「あった……。あー」
知らない土地での呼び出しになんて応じたくないんだけど、番組のスタッフさんとか、抗生教の人とかの適正な呼び出しの可能性もあるしなぁ……。誰かが通りがかったときに間違ってボタンを押しちゃったとかじゃないかなぁ、などとうじうじしていたらもう一度呼び出しが鳴った。
これはあきらかに意図的に呼び出されているんだろう……。
撮影を終えてぞっちゃんかハルカちゃんが戻ってきたのかな?
こうなると無視もできない。
「ちょっと出てくるね」
スクリーン越しで離席の断りを入れてからインターホンに近寄り、ボタンを押してモニタを確認したところ、そこにはやちよちゃんの姿があった。
「やちよちゃん!?」
「こんばんわ佐々也ちゃん。呼ばれた気がしたから来たよ」
「名前は出したけど、呼んではいないよ……」
とは言うものの、せっかく来てくれたので部屋には入ってもらう。
ゴジも窓ちゃんも、やちよちゃんに隠しておく意味はない。
というわけで、あっちはゴジと窓ちゃん、こっちは私とやちよちゃんという感じでのアプリ通話ということになった。やちよちゃんにはゴジのことをこの前の話の男の子であると説明して、窓ちゃんは友達の防衛隊員であると説明。
「佐々也ちゃんの地元の防衛隊? 会津の白虎が居るところだ!」
「いや知らんけど。会津で白虎って、自決しそうで縁起でもない名前だな……」
私の返答に、やちよちゃんは驚いた様子を見せる。
「会津の白虎、知らないの? 白い虎形の獣人で、つい先日、一個小隊のTOXに単騎で立ち向かい、近所の神社で拝受した八尺余寸にもなる御神刀の大段平で青虫を一刀両断にしたというあの豪傑! ここまで噂が聞こえてくるぐらいだから、有名なんじゃないの?」| (※注)
「有名じゃないと思うけど……、なんか話を聞くとそこはかとなく心当たりがあるな……。その白虎ってもしかして窓ちゃんのこと?」
そう聞いてみると、窓ちゃんの視線が泳いで明らかに挙動不審になった。
脚注:八尺余寸で二メートル五〇センチぐらい。




