……7月30日(土) 13:00 五日目:撮影・池袋塚地下居住地区
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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ああ、あまり大きいものでなければコンテナを載せてるトレーラーも思い浮かぶな、そういえば。トラックのコンテナみたいなところに人がひたすら詰め込まれて、荷台と同じ高さのところに乗り降りする感じか……。その、荷台と同じ高さの台が、この宿場の広場ってわけね。イメージができてきた。
そういうコンテナに昨日ハルカちゃんが言ってた二五〇〇人……は人数が多すぎて具体的なイメージとして思い浮かばないから、とにかくたくさんの人が乗るとなると……。
「……コケそう」
「実際、列車が転ぶと大事件という扱いになったみたいだから、そこは極力転びにくいように錘を入れるとか客室が水平を保ちやすい遊びを入れるとか、工夫して作ったんだと思う」
人間がぎっしり満載になったトラックの荷台が転んだ姿を想像するものの、どうにも牧歌的にころんと転がるような姿が思い浮かんでしまって大事件のような気がしない。二五〇〇人も入ってるんだから、なにか常識外のことも起こるんだろうと思って、もう少し具体的な姿を思い浮かべようとする。
残された道の姿から、道幅いっぱいでも大きめのトラックぐらい、天井は高めだからもしかしたら二階建ての車輌に屈んで乗っていたりもするのかもしれない。ぎゅうぎゅうに詰めて、トラックの荷台に一〇〇人……、二階建てとかのなにか特別なテクノロジーがあって倍乗っても……二〇〇人ぐらいが限界じゃないだろうか。ハルカちゃんがやってたようなガバガバ計算法でも十倍違ってたらさすがにもう駄目だろう。
地下鉄が走ってきてこの広場に到着する姿というのを漠然と思い浮かべる。二五〇〇人乗っていると……人間二人で一〇〇キログラムとして二〇人で一トン。つまり人間だけで一二五トンになる。車輌の重さなんてよくわからないから人間と同じということにして総重量二五〇トン。それだけの重さのものが動いているとなるともの凄いエネルギーだし、止まろうとするならそのエネルギーを受け止めなければいけないわけだ。回生エネルギーも使うだろうから、制動距離も伸びそうだけど、これだけ縦に細長い広場なら距離も取れるし制動が多少甘くても止まれるんだろう。
いやしかし、ここの広場は改めて細長い。
ここで、やっとあることを閃いた。
「うーん。……あ、そう言えば、電車ってたくさん繋がってるんだっけ? ということは、すごく細長い? この広場も細長いし、もしかしてここの長さって……」
「そうそう! ここの広場の端から端までぐらいに長く繋がったのが一回分の電車の長さだよ」
「うわ……、それはすごいな……」
今までなんとなく頭の中にあったスケール感がまるごと覆るのを感じた。
要はこの長さの部屋みたいなものが動く感じか。
トレーラー的なものは牽引されているわけだから、ある程度の長さで連結されているならカーブだってできるだろう。
サイズとしては大きめのワゴン車だったらざっと五〇台分とかがひとつの単位になるわけだ。ワゴン車だったらそのままでも詰めれば一〇人は乗れるだろうし、それが五〇台ならすでに五〇〇人。運転席は無いし他にも座席を取り払ったりとか色々工夫があれば三倍ぐらい、つまり一五〇〇人ぐらいは確かに乗れそうな気がする。かなり狭苦しそうだし、座ったりはできなさそうだけど。私の見立て間違いとか、二階建てとかのテクノロジーがあれば、更に一・五倍ぐらいは簡単に増えると思う。
今度は逆に、広さが単位になってしまって、人数に当てはめる感じのイメージがしづらくなってしまった。相変わらず二五〇〇人という人数が密集している姿を映像として思い浮かべることはできないけど、正解に一歩近づいた感じはする。
「なんかちょっと見てみたくなってきたな……」
「アニメで良かったら映像があるよ?」
「あー、そう? そうか……、だったら見せてもらおうかな……」
なんとなくいつもの癖で渋ってしまったけど、電車というものの映像には本当に興味がある。
「その映像、私達にももらえますか?」
と、質問してくるよれひーさん。確かに資料映像として貴重なものかもしれない。
「すみません、手元には無いので……」
「それもそうか。でも、後々にでも良いので」
「それは……。確認してみます。友達に見せることはできても、公開できるものなのかはわからないので……」
ハルカちゃんがなんとなく煮えきらない返事をしている。
それはそうだ。この地球に存在しない映像だったら、どこから出して来たんだということになりかねない。
そういえば幹侍郎ちゃんはハルカちゃんからアニメのセットを譲り受けたはずだけど、その中で電車を見てるんだろうか? だとすると、電車については私より幹侍郎ちゃんのほうが詳しいってことになる。
ちょっと気になるし、普段とは逆に私の知らないことを知っているというのは幹侍郎ちゃんにとってもいいことだろうと思う。
幹侍郎ちゃん本人に、電車って知ってるかどうか質問してみるのは面白そうだ。




