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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
334/489

……7月30日(土) 13:00 五日目:撮影・池袋塚地下居住地区

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。

14:00

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 実際に中央広場の一番低い場所に降りてみると、言葉通りおそらく塚とは成立が異なるのだろうという作りになっている。

 塚の地上部分では、塚の中に各部屋が収まっていて壁を余らせていたりする感じは殆どない。そのため外見の古代遺跡的な雰囲気とは裏腹、中を通っている時にはかなり計画的で人工的な印象になっていた。

 ところが、地下部分は広い空間に住居のための壁が立てられているような感じである。

 言い換えると、もともとあった広場に後から区画が割られたような作りになっている。

 そのためなのか、青天井の中央広場から各所に入っていく道には不思議な開放感があった。本来なら地下だから開放感というのとは別の感想を持ちそうなものなのだけど、なんと言えば良いのか、かっちりした閉鎖された空間に入っていくのとは違う感覚だ。もちろん限りのある地下遺構なので、行った先は閉鎖空間なのだけど。

 その地下二階、中央広場から階を上がらず(ひさし)の影になっているような所に入って行くと、多くの人が集まる配給所や、病院、薬局、配給に回すための食品加工所、予約制でない配給券式のレストランや、お祝いのケーキなんかがほしい時に使う特別配給依頼の申請所なんかがある。最初に見せてもらった地下の配給所は私達が配給品を受け取ったところとは雰囲気が異なって、活気があり猥雑な感じだった。

 今日の撮影では、それらをいろいろ見せてもらう、言ってみれば社会科見学だった。


 最後の頃に訪れた特別配給の申請所では、私は「おせんべいの子」と呼ばれていた……。

 最初はなんのことかわからなかったんだけど、もしや昨日のあの子達がここに来たのではないかという気がする。話を聞くと、やはりあの子達はここに来ていて、ストリームの人に会ったんだと自慢話をしていったのだそうだ。それで、私との話に出たおせんべいを作って欲しいというリクエストがあり、おせんべいは原料が手軽なので特別配給で作ってみる事になったんだそうだ。

 いま最初の試作品の生地を乾かしているところだということで、それを見せてもらった。

 なんだか和気藹々(わきあいあい)とやっているようで、とても良いことだと思う。

「そういえばアレ、やってみてよ」

 特別配給所で案内をしてくれた乱杭歯(らんぐいば)のおばちゃんにこんなことを言われた。

「アレ、ですか?」

 なんだろう……。

 アレと言われても心当たりがない。……みーちゃん可愛いかな?

「ほら、アレだよ。ちょっと見ただけだから忘れちゃったけど、あの子達になにかやってみせるって言ったらしいじゃない」

 それで思い出した。サムズアップのことか。

「これ……、ですか?」

 と言って親指を立てる。

「そうだったそうだった。それそれ。それ、なんか意味あるの?」

「いちおう、いいねっていう意思表示ですけど……」

「あー、そういうこと! なるほどねぇ。おばちゃんいいもの見せてもらったよ」

 いいもの……、かなぁ?

 おせんべいの子からサムズアップのくだりは現場では完全スルーで撮影されて、後からよれひーさんにカメラ前での説明を求められた。それで昨日、配給を貰いに行った時に地元の子供と話をしたことを説明した。

「なるほど、それでおせんべいの子ですか。仕込んだわけじゃないのにこんな偶然があるなんて、佐々也ちゃんさん『持って』ますねぇ」

「持ってる? なにをですか?」

 「これこれ」と言いながら、よれひーさんは自分の二の腕当たりをポンポンと叩く。

「???」

 わからん。腕力のこと?

「さーちゃんに実力があるってこ〜と。いつの間にか持ちギャグまで作ってるなんて、さーちゃんはやり手だね……。でも、この子は私が連れてきました!」

 ぞっちゃんが私をだしにその場のみんなにアピールをしている。

 そんなことしないでも、みんな私よりぞっちゃんの方が高評価だと思うよ……。

 私はなんかズレてて面白がられてるだけで、番組制作の役に立ってるのは圧倒的にぞっちゃんなわけで……。ぞっちゃんは台本無しでいきなり番組進行できたりもするし、アドリブも効くし。

「いやぁ、レザミ・オリセの皆さんのおかげで、良い番組になってます。ほんとにありがとう」

「ありがとうございま〜す」

「はあ……」

「……」

 ぞっちゃんは元気よく、私は要領を得ず、ハルカちゃんは冷静に黙念と、よれひーさんの褒め言葉を受け入れるのであった。

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