7月30日(土) 13:00 五日目:撮影・池袋塚地下居住地区
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十四章 街道を行く。新宿〜池袋。
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7月30日(土)
13:00
五日目
撮影・池袋塚地下居住地区
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13:00
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TOXの警報が出たその日の午後、宿所の大部屋に集まって探検隊の撤退についての説明を聞いた後、池袋の地下にある居住地区を清水さんの案内で見学して回ることになった。
南関東のTOX警報って東京では要するに災害予告になるという説明もあったので、撮影現場はいくらか殺伐とした雰囲気になるんじゃないかという気がして清水さんに質問したんだけど、逆に東京に落ちてくるのは慣れっこだから地元住人としてはそこまでの深刻さは無いんだそうだ。
今回は数体の中型が混ざっているということで比較的規模も大きいからもう少しそれっぽい反応があってもいいのでは無いかという気もするのだけど、直接対峙する戦闘部隊ならともかく避難する側からしてみれば中型が数体ぐらいでは特に変わりはなく、規模が多少大きかろうがすることは変わらないということらしい。
人間なんてなんにでも馴れてしまうもんなんだな……。
その池袋の居住地区を見て回る撮影。
見ると言っても居住地区なので観光という雰囲気にはならず、絵面としては生活道路を歩き回ってから、清水さんが紹介してくれる数件のお宅の中を見せてもらう感じになった。
地下なのは珍しいけど。
なんかこう、ストリーマーが時折やってる我が町紹介みたいな絵面だ。(地下だけど)
池袋の中心部分はドーナツ型の塚の穴の部分だ。
あ、いや、概念的な中心は抗生教の本部だろうし、経済生活的な中心は配給所だろうから、あくまで純粋に地形的な話としての中心だけど。
その中心部の穴は地下二階相当の穴になっていて、そこに露天の広場がある。
だから真ん中の部分に立つと、穴の中の地下二階分と塚の分である地上三階分の合わせて五階建てぐらいの建物に取り囲まれているような見え方になる。これがなんとも奇妙な感覚で、二日ほど経ってもまだ慣れない。中心部分が高さ的に地下にあたるということを、なんとなく納得できないのだ。
ぐるっと取り囲まれた真ん中だけ地面の場所が低いという独特な地形が混乱の元なんだと思う。
ただ考えてみれば真ん中に穴があってその周りを衝立のような高台に取り囲まれているという形はクレーターと相似形であったりもする。ドーナツ型なところだけじゃなくて、衝立の一部が欠けていて外と接続しているところも相似形だ。
もちろんすぐそこにある実際のクレーター丘陵は外輪側がかなりなだらかであることに比べて、塚の方の外輪側はかなりの急斜面であるのでより戯画的な感じではあるし、現実のクレーターには抗生教本部に当たるような目立つ構造物が付随したりはしていないから、似てないところだってあるんだけど。
せっかく面白い偶然に気がついたので、撮影中の閑話として清水さんに「塚の形とクレーターの地形はよく似てるんですね、なにか意味はあるんですか?」と尋ねてみた。
すると「なにかこれという言い伝えなんかはありませんので、たぶん偶然だと思います」とのことだった。
無いのかよ。
返答に続いての清水さんの説明によると、塚の中央広場の部分は本来は大きな二層の地下室だったのだけど、最初期の大きなTOXの直撃で地上から地下二階まで崩落・貫通して今の露天の地下広場となり、その後にあの威圧的な本部がぽっかり地面に空いた穴の脇に建てられたのだそうだ。そういう昔の絵があるのだとか。
その絵には、塚は描かれてはいない。
つまり最初期には塚は存在せず、最初はみんな穴の横の崩れていない地下空間に住んでいたらしい。その後、歴史とともに穴の周りにいまの塚が段々と作られてきた、ということなのだそうだ。その時にみんなが住んでいた穴の周辺に人々が使う塚の建屋が段々と形作られたのであって、クレーターのように中央部の穴の形成と周辺部の丘の形成に必然的な関係はない、ということだった。
こうして順を追って説明されると、確かに偶然だろうなと素直に納得できる。
「でも、言われてみると池袋とクレータの形が似ているというのは面白い話ですね。池袋以外にいる時に池袋の塚の形の説明をする場合なんかに使ってもいいですか?」
「それはもちろん良いですけど……、本当に役に立ちますか?」
「どうでしょうね? でも、塚の中央が地下になっている事って、意外と説明しても伝わらないんですよ。印象に残らないらしくて。そこを補うのには良い例えじゃないかという気がします」
「お役に立てるなら良かったです……」




