7月30日(土) 10:30 五日目:抗生教池袋宿所
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
━━━━━━━━━━
7月30日(土)
10:30
五日目
抗生教池袋宿所
━━━━━━━━━━
開けて翌日。
午前中、早めの時間に、やちよちゃんの言ってたとおりTOX警報が発令された。
到着は八月五日、だからえーと、六日後かな?
南関東を中心とした落下予想であり、そうなるとまぁ東京だろうという見方がされている。三度目の折瀬という意見も無くはないようだけど、もし本当にそうなったら大事件だからどうなるか注目という、そういう野次馬的興味が隠しきれないというような扱いでもある。
落下予定が報じられた後、時間が大幅にずれることはない。
当初予想から大きくずれたとしても数時間程度の差になるのが普通だ。
最終的に予報円の端の方に落下する場合なんかにはもちろん当初予想時刻とはいくらか違くはなるのだけど、そもそも予報時刻は予報円が縮小されていくごとに着々と修正されていくので、結果としては一日前で誤差数分となる。
通例、当初の予報より早く到着することはほぼ無く、遅れるのが普通だ。
地球との相対速度的に減速はするけど加速はしないのである。
今日はお昼前から清水さんの案内で池袋の居住地域の地下部分を見て回る予定だ。
その前の打ち合わせの時、よれひーさんがTOX予報を受けて、今後の撮影隊の予定変更を発表した。
それによるとTOX襲来の前日は猶予日として、その一日前の八月三日に東京を撤退するそうだ。
撤退とは言っても撤退先は大宮なので車で一時間半ぐらいで帰れてしまう。
だから、その日は最後の撮影や避難する模様を撮影する予定だそうだ。
もう撤退を決めてしまったというのは、なかなか性急だと思った。
今の段階では東京付近を中心にした予報であるだけで東京に来ると決まったわけではなく、普段であれば当日になって差し替える予備プランを考えるという程度の状態で、少なくとも前日ぐらいまでは様子を見るのが普通なはずだ。
ところが東京では、予報が出たら来るものと考えるのが普通なのだそうだ。
言われてみればまあそうなんだろうな、という気はする。これまで東京の人の気持ちになって考えたことがなかったから、なんだか違和感を感じるだけなんだろう。
そうしてみると逆に、連続で折瀬に行ったことを東京の人はどう感じたのだろう?
清水さんに聞いてみようかと思ったけど、私の秘密と関わる話題になりそうかどうかの判断が判断とっさにつけられなくて、質問するタイミングを逃してしまった。
撤退後、大宮に戻った後どうするのか。折瀬に帰る手配をしなくちゃいけないのかな、いや私は東京に残るけどそのフリでもしないと怪しいし、みたいなことを思ったのだけどこの心配は杞憂で、私達レザミ・オリセは臨時企画で配信しながら最初の予定通りの期間を大宮で過ごしてもらう予定、とのことだった。
「本当なら襲撃が終わった後に改めて東京に戻りたいところだけど、抗生教側の受け入れは難しいって話だからしかたない。そもそも東京では落ちてくるTOXをすべて倒すわけではなくて、最初の攻撃以降はやりすごす形になるので、TOX襲撃直後の東京はまだ危険なままになるそうです」ということだ。
降りてきたTOXを全部倒すわけではないという話は、そういえば前にも聞いた。
折瀬でもTOX襲撃の後には短いながら外出禁止の期間があったし、全部倒したという確認が取れてから外出禁止が解除になった。
全部倒さないとなると、外出禁止を終える目処が立てられなくなるってことか。なるほど、という納得感がある。
ところで、私は東京に残ることで話がついてるんだけど、その事は言い出しそびれてしまった。
言い出しそびれたというか、上手く切り出す方法を思いつけない。
「なんか、私ってTOXに狙われてるらしくて、東京で護衛してもらうことになりました」
とでも言うのか?
本気で?
よしんばそれを言って信じてもらったとして、その後はどういう扱いになるかわからない。
というか、TOX予報の前からTOX落下を前提にした予定が決まってるのってどう説明すればいいのか……。
こうなったら最悪、その日の夜に大宮から抜け出してまた東京に来るような算段をつけないといけないのかもしれない。さすがに夜寝る時間なら、いくらどんくさい私でも抜け出すことはできるだろう。
安請け合いしちゃったけど、東京に残るのも意外と難しいぞ、これは……。
第十三章 了
次回更新は8月1日の予定です。




