表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
331/489

……7月29日(金) 19:00 四日目:抗生教池袋宿所屋上

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「言葉を理解する能力が低い? 佐々也ちゃん言葉いっぱい知ってるよね?」

「取り違えて間違えるってことなんだから、コミュニケーションの能力と語彙力は関係ないよ。口下手な小説家だって居るらしいし」

「まぁ、そう……かもね。とりあえず私は怒ってないけど、でも感じが悪かったことだけは言っておきたいと思ったんだよ。でも怒ってないけどね、言っておきたかったんだ」

「……わかった。それはそれとして、いちおうお願いして東京に居てもらうようにしたかったんだけど、もうお願いすることにあんまり意味がない気がしてきたから、TOX襲撃のときには東京に居てもらうって決めたからね。安全は保証する。わかった?」

 私の、冷たいように見えるだろう言い方でも、やちよちゃんは飲み込んでくれた。

 でもその分、遠慮はなくなったらしい。

「まぁ、私はそれで良いんだけど……、よれひーさん達とぞっちゃんは帰してあげてよ?」

「もちろんそのつもり。安全を保証してあげる相手は少ないほうがこっちの負担は少ないからね」

「ハルカちゃんも一緒でいい?」

「一緒って、どっちと?」

「私と一緒に東京にいる方」

「それなら私もその方がいいわ」

 そういえば意志の確認を忘れたけど、ハルカちゃんも同意してくれた。

「まぁ……、一人ぐらいなら。というか、あなたは戦闘力あるの?」

「あるとしても人間程度。よほどのことがない限り死ぬことはないし負傷で能力が下がったりもしないから、それだけは利点かもしれないけど」

 うそつけ突然EMP攻撃したりできるはずだろ、と思ったけど、ここは黙っておく。

「ふーん。……それって、他の人に話してもいい?」

「できれば秘密にして欲しい」

「じゃあ佐々也ちゃんと同じ扱いだね。護衛のフリでもしてくれればいいよ」

 私に護衛が必要みたいな状況になるのか……。

 まぁでも、ゴジの家に居たらもっと酷いことになりかねないわけだから、そっちのほうがマシなのかなぁ?


21:00

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 しかし話をするにつけ、やちよちゃんは抗生教の代表みたいな口ぶりである。とはいえ、清水さんの様子を思い出すと、関係者になりすましてるということでもなさそうなんだよな。でありながら、自分の身分を明かさない。

 まぁ、こっちから聞いても居ないから、言ってないのを忘れてるだけかもしれない。

 だからやちよちゃんは何者なのかということを直接聞いた。

 で、それに答える八千代ちゃんの言葉に拠れば『おかざりの教主(きょうしゅ)』だそうだ。

 教主(きょうしゅ)

 そ、それは、一番偉い人なのでは?

「おかざりって言ったでしょ? そもそも抗生教の大部分は実務集団だから、私みたいな子供に出る幕は無いんだ。しかも私の能力は実務に役立つわけでもない。だから教団にわがままを聞いてもらうことはできるけど、私が思うままにできるわけではないんだよ」

 清水さんの態度を思い出すとそういう感じでもなかったけど、具体的に事情がわからないからあまり簡単に口を挟むのも難しい。

 やちよちゃんにはやちよちゃんの感じ方があるのだろうし……。

 それに、他にも気になることはある。

「そういえば、やちよちゃんって有名なの?」

「まあまあぐらい。顔を出したら騒がれるって感じじゃないよ」

 実際、赤羽ではホテルでもコンビニでも気が付かれなかったのを見ている。

 まぁでも、いちおう確かめてみたら、よれひー探検隊の他の人達には秘密にしておいて欲しいそうだ。また秘密が増えてしまった。でももうそんなの気にしてられないぐらいすでに秘密は多い。

 そんなことをなんやかんや話しているうちにだいぶ遅い時間になり、やちよちゃんがもう帰るよと言ってなんとなく解散になった。

 次に会う約束とかしなかったけど、やちよちゃんの身の上を思うと迂闊に約束もできないんだろう。

 私としても約束はできない。なにしろ予定がどうなってるか知らないんだから。


   *   *   *


 そういえば結局、TOX襲撃の日、私は東京にいることになったんだっけ?

 トントン拍子に話が決まってしまったし、色んな話をしたしで、なんだか実感がわかない。

 私の居るところにTOXが来るって?

 ぼーっと考え事をしながら階段を降りようと屋上のドアを開けた時「ほら、忘れてるよ」と、今朝ここに着て来て忘れっぱなしになっていた上着を手渡された。渡してきたハルカちゃんは自分の上着をちゃんと回収している。

「あ、忘れてた。ありがとう……。違うんだよ? さっきね、思い出したんだ。でもそのタイミングでやちよちゃんに声を掛けられて、そのままになっちゃって……」

「しーっ」

 自分のドジについてしなくてもいい言い訳をしようとしたところ、ハルカちゃんに止められた。

「ここでやちよちゃんに会ったのも秘密。じゃないと疑われちゃうでしょ?」

 こうやってどんどん秘密は増える。

 一部でも少しでも秘密の重さを軽くしたいと言っていたゴジの気持ち、改めて分かってきた気がする……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ