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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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……7月29日(金) 19:00 四日目:抗生教池袋宿所屋上

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「……佐々也ちゃんは、『耐性菌』って知ってる?」

「たいせいきん? 漢字は?」

「耐久力の耐、性質の性、病原菌の菌」

「聞いたことあるような気はするけど……。なんか生物兵器とか改造人間とかの話だっけ?」

「違うよ!?」

 ハルカちゃんがめちゃめちゃびっくりしたみたいな素っ頓狂な声を出した。

 そんなに違かったのか……。釈明が必要であると感じる。

「なんかのゲームで悪の組織がそんな話してたような気がするんだけど……」

「……まぁ、そういうゲームもあるかもしれないけど、だとしたらかなり悪い奴らってことになるね……。そういうのじゃなくて、『耐性菌』っていうのは治療のために薬を使いすぎてしまって、その薬が効きにくくなっちゃった病原菌の事」

「病原菌が薬に馴れた、みたいな?」

「馴れるっていうのはよくある間違いなんだけど、ちょっと違う。病原菌も生物だから、普通なら薬っていう攻撃で死んでしまう。でも生物だから個体ごとに性質にブレがあって、薬の攻撃に耐えられる病原菌が生き残る場合もある。一回ですべての菌を殺せるわけではなくて、薬相手に生き残った菌と単純に運良く生き残っただけの菌が増殖して、速いペースで世代交代が進む。それを繰り返すうちに薬相手でも生きられる病原菌だけが残る。つまり薬に負ける菌が淘汰されてたびたび薬で攻撃される環境に病原菌が適応するんだ。言い方を変えると『進化』する」

 ……。

 その進化っていうのは、馴れるっていうのと要するに同じじゃないの……?

 『同じ個体が』馴れて耐えられるようになるんじゃなくて、薬に弱い個体はいなくなって子供を作れないから『その病原菌全体として』薬に強くなるという話だから違う、ということなんだろう。

 それは『病原菌の全体が薬に馴れた』ということなんじゃないのかという気はするけど、こうなってくると言葉の問題だ。違うと言うなら違うのだろう。

 でもなんで急に耐性菌の話を?

 無理やり当てはめるなら、能力者がTOXの塵に馴れて、普通の人から能力者に進化するみたいな話かな?

「つまり、能力者にTOXの塵を浴びせて塵に強い能力者を作る意図があるってこと? つまりTOXの塵って能力者の体の中で、薬が病原菌を攻撃するみたいになにかを攻撃するの? うん? というか、能力者の能力って病気みたいなもんなの? 病原菌が理由?」

 疑問が次々と出てくる。

「……あんまり的確な例え話じゃなさそうに思うけど……」

「うーん、私が想定した人間の役割はそこじゃなくて、耐性菌の個体の方なんだけど……」

 耐性菌の個体の方って、世代交代で入れ替わる方?

 ん? つまりどういうことだ?

「……人間が耐性菌の個体だとすると……人間が変異して、全体的にTOXで死ににくい人間に入れ替わっていく? あ……それが能力者か……。辻褄は合うけど、人間って病原菌なの? この例えだと人間が病原菌で、病気になってるのは誰? TOXは薬なの? 治療として、薬を投与してるのは誰? しかも、やちよちゃんの言う通り地球が意図して耐性菌の能力者を生み出してるって言うなら、地球はそのTOXが薬になってる病気を治す気がないってこと?」

「『病気になってる誰か』っていうのが地球のことだよ。人間が病原菌みたいなもので、環境破壊をしながら地球の健康を害しているっていうのは太陽系時代には人気のテーマだったんだけど、もしかしたら今はそういうのってあんまり流行ってない?」

 ハルカちゃんが怪訝そうな表情をしている。

「私は聞いたことないけど……」

「いま、地球に住んでる人類って一〇億だっけ?」

「もうちょい多いよ。一五億に近いぐらい」

「日本が三〇〇〇万人だっけ?」

「そうだね。国単位だと世界でも有数の人口密度。だからTOXがよく来るって話だよ」

 この辺は現代のことだから、ハルカちゃんと私の間で認識の整合性が必要だ。

「うん……あのね、地球の人口って、太陽系時代末期には一〇〇億人に近かったの。日本の人口が最大時で一億三〇〇〇万ぐらい」

「ああ。学校で習ったことある。いまと比べるとだいぶ多いよね。でも、機械文明や食糧生産技術と同時に医療が発達して病死が減って寿命が伸びた時期だから加速がついてそうなったって聞いたけど」

「増えた理由はそうかもね。でも、この時期、人口が多すぎるという意識はその時の地球人類にもあったらしいんだ。人間活動が多すぎるせいで気候が変わってしまったり、全地球の食糧生産能力が人口増加に追いつかなかったり埋蔵資源が枯渇したり。環境保護団体というのも居たりしたんだよ」

「環境保護団体は今だってあるよ。生物の多様性を守らなければならない、みたいなやつ」

「当時は、増えすぎた人類のせいで地球が生き物の住めない星になってしまうかもしれない、とまで言われていたの。温暖化や乱開発、生物資源の搾取(さくしゅ)みたいな、人間の活動のせいでね」

「はぁ……」

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