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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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……7月29日(金) 19:00 四日目:抗生教池袋宿所屋上

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「それが……地球の意思だからだよ……」

「ああ……」

 そういうやつか。

 これが本当の答えだとすると、やちよちゃんは理由までは知らないという事になる。

 それからやちよちゃんは、意識と意思、厳密には違う言葉だけど、あんまり区別していないらしい。あえて違いを言うなら意識というのは……、自分の言葉で表現するのが難しいな……。もう一方で意思というのは……、こっちも難しいぞ。辞書を引きたい。とりあえず区別するなら、『意思』というのは『意識』の一部分のことで、より小さいことを指しているという感じはする。

 とにかく、地球の意思というのが本当でもそうでなくても、こういう言い方をするのであれば、やちよちゃんから正解を聞き出すことはできないということだ。

 だって知らないんだから。

 質問しても答えが得られないという意味では、ちょうどいまやちよちゃんがハルカちゃんから塵埃の影響について聞きたがったのと鏡写しの話でもある。

「ハルカちゃんはなんでだと思う?」

「さぁ? 住んでいる人たちの意向を考えないで良いのであれば、攻撃される場所は少ないほうが守りやすいよね。だから来るのが避けられないなら、東京にTOXが来てくれる方が全体としては都合が良いのは間違いないと思うけど?」

「地球の意思っていうことなら、全体にとって都合が良い方を優先するかもね、たしかに」

 なんとなく、登場する単語とロジックの全体像としては納得できる感じではある。

 地球の意思とやらが、そんなに明快で具体的な目的意識に基づいているのかどうか、という疑問は残る。地球の意識とか意思とか言う時、それは人間の意識とか意思と同じものなのか。たぶん違うんじゃないかな、という気がするのだ。すごく。

 とはいえやちよちゃんと会話する上では、地球に意識があるという想定は前提だし、あまり疑ってもいけない。

「佐々也ちゃんは、なんか思いつかないの? なんで東京に誘導したいのか」

「そうだね……。撃退するのに便利みたいな話だとすると、能力者が集まってる東京にTOXを呼ぶのは効率いいし、その東京に能力者が集まりやすい全体的な仕組みができあがってるのも都合がいいかもねとは思うって感じだけど、東京に能力者が集まってるのは人間たちが結果的に集まってしまったという話であって、地球の意思……というか誰かの思惑であると言うためには証拠が足りないと思う。その……もし仮に自発的に能力者が東京に集まる仕組みがあるんだとしたら……例えば……。ん? 別に能力者だからってTOXに狙われやすいってことはない……んだよね?」

「知らないけど、無いと思うよ。TOXに狙われるから故郷を追い出されたって話は聞いた事がないもん。それに、もし本当にそんな事があるなら、能力者はもっと忌み嫌われているはず」

「もっとっていう事は、忌み嫌われて故郷で暮らせなくなって東京に来る能力者は、いまでも居るってこと?」

「居るよ……、たくさん居る」

 やちよちゃんはなんとなく悲しそうだ。

 悲しそうなのではなくて悔しそうなのかもしれない。

 見た感じではそこまで細かい区別はつかない。

「だとすると、東京の特徴にはTOXが来やすいのと、能力者が集まりやすいことの両方が、別々にあるってことだよね。能力者は子供が作りにくいっていう怪しげな話を考え合わせると、東京という場所に人が居なくならずに維持できているのは他から能力者が来るからだとも言えるのかも。それで東京に来ると、空気の関係でなにかがあると……。なにかの方向性みたいなものは感じるけど、この理屈の流れの入口と出口がどこにあるのかは見当たらないなぁ。つまり、私にはなんにもわかんない」

 とりあえず、いま思いつくことを単に並べてみた。

「……」

「なんというか、もし仮に誰かがこういう状況を作っているのだとしたらなにか意図がありそうだな、とは感じるよね。誰かがTOXを地球に送り込んできて、誰かがそれを守るために東京に能力者を集めている。うーん、いまなら叡一くんの言ってる『高階者』が居るかも知れないと思う気持ちもわかるな。いかにもなにか目的とかがありそうな感じするもんね。でも、誰だろうね? あっ! 意図と言えば地球かなぁ、なんて」

 誰も返事をしてくれないので、なんとなく話を続けてしまった。なんにもわからないと言いながら、思いがけずいっぱい喋ることが出てきてしまって自分でも驚いた。

 まぁでも冷静に考えると、全部が全部、単なる思いつきであって、事実として判明していることではない。本当に出てくる考えをただただ並べただけ。

 言うだけ言ってなんとなくスッキリしていたら、ハルカちゃんが口を開いた。

「……佐々也ちゃんは、『耐性菌』って知ってる?」

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