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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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……7月29日(金) 19:00 四日目:抗生教池袋宿所屋上

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「マイクロメートル? それは、小さいものとしてはかなり大きいのでは? えーと、確かマスクの防塵性能とかがそんな感じだから、工業的な微細粉塵とかと同じぐらい? ってことは、それぐらいのサイズのものって目に見えたり敏感な人なら感知できるのでは? 確か髪の毛がマイクロメートルだよね?」

「髪の毛は細めのもので五〇マイクロメートルぐらいかな。だから(いち)マイクロメートルは充分(じゅうぶん)小さいし、肉眼では見えないよ。顕微鏡では見えるけど。よっぽど濃度が高ければ、(もや)とか(けむり)みたいな感じで肉眼でも見えるのかもしれない。塵埃の量が多いとは言ってるけど、さすがにそこまでの濃度ではないからね?」

 なんとなくイメージを掴むためにハルカちゃんが呼吸をしているところを思い浮かべようとしてから、ナンセンスなことに気がついた。

「またまたぁ。ハルカちゃんには呼吸は必要じゃないくせにぃ」

「私は要らないけど、佐々也ちゃんには必要でしょ? 息苦しい?」

「特にそういうことはないね」

(いち)マイクロメートルの粉塵と言うと、タバコの煙なんかもそれに当たるんだけど、あれは目に見えるぐらいの濃度になってる。でも吸い込んでも息苦しくはならないよね? つまり、そういうこと。でも人体に入り込んで、体内に蓄積してしまうぐらいのサイズではある。佐々也ちゃんを東京に(とど)めたい理由はこれなんじゃないの?」

 と、ハルカちゃんが聞いたら、やちよちゃんはビックリしていた。

「……蓄積っていうと、それって体に悪いの?」

「調べ始めたばっかりだし専門家でもないから、私にはそれはわからないけど……」

「そっか……」

 と、やちよちゃんはなにか考え込んでしまった。

「ハルカちゃんってその塵埃(じんあい)っていうのの影響を調べようと思えば調べられるの?」

「……私には無理だと思う。私は自分の健康のことならまだしも、生物人類の身体構造にはほとんど詳しくないから」

 なんだか、二人が見合ったまま静かになってしまった。

 ハルカちゃん的にも思ったとおりに話が進まなかったし、やちよちゃん的にも意外な部分があったんだろう。

「あー、やちよちゃん。なにか意外に思うようなことでもあった?」

「あったよ。TOXの(ちり)が体に蓄積するなんて、考えたことなかった。あ、じゃあ……」

「お? なんか思い当たることがある?」

「TOXがたくさん来るところには能力者が集まるっていう言い伝えは、それが理由なのかな?」

 TOXのことはなんでも知ってるみたいな態度だったやちよちゃんがこの件では質問に回る。本当に知らないんだろう。

「言い伝え? 戦いに来るとかじゃなくて? それは……そうかもしれないけど、わからないね。実験したりして、確認してみないと」

「実験って?」

 やちよちゃんが聞くけどハルカちゃんは答えないので、私が代わりに口を出す。

「ええと……あんまりTOXが来ない地域を見つけて、そこの人にその(ちり)だけ食べさせるとか?」

「人体実験? ひどいなぁ」

「いや、じゃあ、実験動物でやるとかさ」

「それだと人間だとどうなるかわからないじゃん!」

 理解に難儀しているようだからせめて例ぐらいは出すかと思って親切で口を出したら、大変強い調子で否定されてしまった。しかもごもっともである。いちおう、薬なんかだと段階を踏んで最初は動物から、みたいな話を聞いたことがあるから言ったんだけど、そこから先のこととか、どういう段階を踏むかとは本当に知らない。私はただ連想して思いついたことを言っただけでしかない。言わなきゃよかった。

 でも「せめて」のつもりで口に出したのには、それなりの理由もある。

「私も学者じゃないんだから、具体的なやり方は知らないんだよ。単なる例。でも、やちよちゃんが思いついたのはいまのところはまだ仮説ってやつで、本当だと思うためには検証っていう確認が必要だね、っていうのが大事なところなんだ。だから、ハルカちゃんが知らないならどれだけ聞いても絶対に答えが出ない」

「……そうだね、そりゃそうか。佐々也ちゃんもハルカちゃんも、なんでも知ってるわけじゃないか」

 私の知識が聞きかじりの大変限られたものであることは事実だ。

 本当はハルカちゃんは実験のやり方ぐらいまでは知ってるんだろうとは思うけど、もしかしたらもっと非人道的でここでは口に出せないし、やってみる気の起こらないようなことなんじゃないかという気がする。

 ハルカちゃんはアニメの話以外、あんまり自分の知識をなんでも話そうとはしない人だ。

 私も私でハルカちゃんから何でも聞き出そうとするのは気が乗らない。知りたがりの私にしては珍しい事だと思う。でも、ハルカちゃんに教えてもらうのは、なにか違うと感じている。

「そうだよ。やちよちゃんの言う通り、私が知ってることなんてほんのちょっとだ。でも、この話も違うとなると、なんで私を呼んでまでTOXを東京に越させたいの?」

 ここで話はまた戻る。

 本当に話が進まない。

 だから、じっとやちよちゃんを見つめて話を促す。

「それが……地球の意思だからだよ……」

「ああ……」

 そういうやつか。

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