……7月29日(金) 19:00 四日目:抗生教池袋宿所屋上
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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「いや、実際に会話してみるとその辺の人間の子供と変わらなくて、巨大ロボットらしくないぐらいの意味」
「巨大ロボットらしくって……、他にも巨大ロボットの知り合いがいるの?」
「居ない居ない! 人間の知り合いしか居な……、いや最近は人間以外の知り合いが急に増えたんだけど、基本的には人間の知り合いばっかりだよ」
「またまたぁ。他にも未来人とか異次元人とか神様とか隠してるんじゃないの?」
「隠してないって! そんなの、あたしゃなんなんだよ、って話になるでしょ?」
厳密に言えば、解釈に依ってはハルカちゃんは未来人の一種なんだけど、そんなこと言っても話がややこしくなるだけだ。
その辺を隠して、ちょっと激しい調子で否定。
やちよちゃんにしてみれば軽い冗談なんだろうけど。
「はぁ……。それで、本来はなんの話ししてたんだっけ?」
一息ついて、改めて話題を戻す。
私の質問にハルカちゃんがにこやかに答えてくれた。
「元から話してたのも、言ってみれば佐々也ちゃんがなんなのかって話だったんだけどね。佐々也ちゃんのコンプレキシティとか、佐々也ちゃんが東京に居るべきかみたいな話だったよ」
「そうだった……」
やちよちゃんの予言では、私のところにTOXが来るらしくて、そんな私はなんなんだって話だった……。
「私のところにTOXが来るって話ね。でも、私は私じゃなくて幹侍郎ちゃんなんじゃないかと思ってたんだよ。最初に来たTOXが幹侍郎ちゃんの居る地下を狙っていたから」
「『ミキザブロウ』っていうのがその巨大ロボットの子供の名前? やっぱり地下に住んでるの? だとするとやっぱり地底人なのでは……」
「もうそれは忘れて……、っていうか、巨大すぎて目立つから隠れるために地下に居るしかないんだよ。それが可哀想で、東京に居場所がないかを見に来たんだよ、私は」
ゴジが言ってた管理者権限のやつ、別にダイアログが出てくるわけでもなく、ぬるっと行使してしまった。でも権限があるおかげで、あんまり気に病む必要がなくて、その辺は助かる。
「ああ、そういう……。ちなみに、巨大ロボットって、大きさどれぐらいなの?」
「身長二〇メートル弱。体重六〇トン程度」
「大きいなぁ。それで、強いの?」
「戦ったりしたことないからわからない。というか、本人が希望するんでなきゃ戦って欲しくないよ。まだ子供だし」
「その体があっても戦わなくて良いのか……、恵まれてるんだね。でも、それは分かった。そういう人もいる。まぁ、抗生教での受け入れが不可能なわけではないんだけど、あくまで互助組織だから基本的には受け入れたらなにかをしてもらうことにはなるんだよ? それだけ大きければどうしたってTOXとの戦いをみんなが期待することになると思うから、どうしても戦いたくないなら代わりのなにかが必要になる」
やちよちゃんは、部分的にわからないところがあると話が進まないなんてことはないから、話が早くて助かる。
私だとわからないところを置いておくのは苦手だ。
「ありがとう。本人と、親の意向というのもあるから、私が決められるわけじゃないんだけど、今の話をしてみるよ」
お昼に会った子達のような同世代の子供だって居るみたいだけど、抗生教はいかにも普通のというかあまり外の世界と大きくは変わらない一般社会のようだし、所属しているのはやっぱり大人が多いようだから、幹侍郎ちゃんだけで来させるのは心配な感じである。
「ちなみにだけど、幹侍郎ちゃんの親、というか私の友達の男の子だけど、その子が来ても受け入れられる?」
「巨大ロボットを作れる能力者でしょ? それは大歓迎」
「偶然できちゃったみたいな感じだから、コンスタントに思うままのものが作れるかどうかは怪しいんだけどね。ゴジが普段作ってるのは、自動ドアとかそういうものだよ」
「自動ドア! そういうのが作れるならもっと大歓迎だよ。むしろ、戦わないロボットを作るよりそっちの方がいい。東京は物が豊かな場所ではないから」
幹侍郎ちゃんのことを戦わないロボットなんて呼ぶのは止めてほしいんだけど、いまの問題はそこじゃないし、やちよちゃんの話の早さの引き換えになる部分だから仕方ないみたいなところはある。
ゴジの能力は『劣った機械を作る』というものだから、なんでも良いのであればここでは重宝されるということなんだろう。ゴジはいつも買ったものの方が使いやすいということを言っていたけど、物が買えない東京ならばゴジの能力が上手く活用できるということになるわけだ。一方でここに来るように誘われている私だけど……。




