……7月29日(金) 19:00 四日目:抗生教池袋宿所屋上
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
「佐々也ちゃんが狙われるわけじゃない。TOXは個人を狙ったりしないんだよ。問題がありそうなところを潰しに来る。だからTOXから見ると、佐々也ちゃんがいる場所が問題の有りそうな場所に見えるってこと」
「コンプレキシティ、ってやつ?」
「コンプレ……?? ああ! イルカはそう呼んでるらしいね。よく知ってるね」
「知り合いのイルカに言われたんだ……」
「佐々也ちゃんってイルカの知り合いも居るの!? 宇宙人だけじゃなくて?」
宇宙人の知り合いは居ないが、まぁいい。
これはハルカちゃんに対する認識が雑なだけだ。
「そう、イルカの知り合いもいる。大雑把に言うと、そのイルカの知り合いにはコンプレキシティが強いところを追いかけたら私のところに辿り着いたって言われた」
「ん? どゆこと?」
「うーん、私にも見えてるわけじゃないからコンプレキシティに詳しいわけじゃないんだけど、コンプレキシティの痕跡を追ってたイルカの友達――叡一くんってな名前なんだけど――に会って驚かれたんだよ。それで、私にはコンプレキシティが多いんだって、そのイルカの叡一くんに言われた。TOXはコンプレキシティが多いところに行く、とも言ってた。やちよちゃんが言ってるのもそういうこと?」
私が説明し直すと、やちよちゃんは少し上を向いて考えていた。
「うーんと、私にはそのイルカのコンプなんとかは見えない。でも、イルカにも同じこと言われてるんなら、佐々也ちゃんもTOXが来やすいってことに納得できるんじゃないの?」
「別に納得はできないけど、なんとなくなにかあるのかも、みたいな気持ちにはなってきたよね、流石に」
「じゃあもういいんじゃない? 私はコンプレなんとかのことはわからないから説明もできないよ。でも、佐々也ちゃんは東京に居なよ。私も、その知り合いのイルカにも言われてるんだから」
「そう言われてもなぁ……。それはホントは私じゃないかもしれないんだよ……」
TOXが向かっていったのも、叡一くんが無理やり潜り込んだのも、幹侍郎ちゃんの部屋の方だ。私だと思いこんでそうでなかった場合、大変なことに……。
は、ならないか。
私が居るか居ないかしか違わないから、TOXとの戦いに違いは出ない。
不安であろうゴジや幹侍郎ちゃんのそばに居てあげられないのは薄情だとは思うけど、冷静に考えたら私は確実に戦力外だ。
「え? 佐々也ちゃんって他にもまだなにかあるの? 宇宙人とイルカと、その他に知り合いに地底人でも居る?」
「地底人ではないよ……、なんと言えばいいのか、……正確な言い方ではないんだけど、巨大ロボットの子供が……」
「巨大ロボットの子供!? なにそれ!!」
「説明が……難しいんだけど……。私の友達に子供が居て、その子が巨大ロボットって言うことなんだけど……」
本当に、なんと言えば幹侍郎ちゃんのこを誤解なく伝えられるのか……。
「親も? 親も巨大ロボットなの?」
「親は人間だよ。能力で生み出してしまったんだ」
「お腹を痛めて産んだわけではなく?」
「生み出した親が男の子だからね……」
「それは……、作ったのとは違うの?」
当然の疑問だ。
当事者の意向を反映して不自然な言葉遣いをしているという認識は私にもある。
とはいえ、事情を知らなければわかりにくいというだけで当事者の意向も理解できるというか、ゴジの気持ちはよく分かるので反発するつもりはない。
両方ともそれなりにもっともなだけで、どっちの気持ちも理解できる。
「なんというか……『作った』って呼ぶのは、本人には抵抗があるらしいよ。その……、生まれてきた子の性格がかなり人間らしい感じ、みたいなところもあるし」
「人間らしい性格の巨大ロボット? 人間らしいってどういう意味? 好き嫌いが激しいとか、夜中に起きて泣き出すとか、そういう感じ?」
「いや、実際に会話してみるとその辺の人間の子供と変わらなくて、巨大ロボットらしくないぐらいの意味」
「巨大ロボットらしくって……、他にも巨大ロボットの知り合いがいるの?」
「居ない居ない! 人間の知り合いしか居な……、いや最近は人間以外の知り合いが急に増えたんだけど、基本的には人間の知り合いばっかりだよ」




