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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
316/489

7月29日(金) 19:00 四日目:抗生教池袋宿所屋上

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


━━━━━━━━━━

7月29日(金)

     19:00

       四日目

 抗生教池袋宿所屋上

━━━━━━━━━━


18:30

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 配給で受け取った材料で作ったこの日の晩ごはんは、鶏の炊き込みご飯と鶏と大根の煮物、軽めのサラダと茄子のお漬物だった。お漬物はお漬物として配給に入っていたので、こうする他なかった感じだ。

 配給には他にも卵や生野菜も入っていたのだけど、これは明日の朝食になるのだという。

 お部屋とか食器が非日常っぽい高級ホテル的な豪華さなのに対して、このご飯は家庭料理っぽいというか合宿っぽい感じで、なんだかアンバランスなようにも感じる。美味しいから不満ということはないんだけど、東京ということと旅行ということの両方に見合わないような気がしてしまい、なんだか座りが悪くて奇妙な感じだ。

 編集作業中の人も呼んできて、みんなで集まって夕食。

 ご飯の間の話題は、今日の番組の編集について。

 太陽系時代の東京の情景描写を巡って、結局ハルカちゃんの独演会になっていた。その上、作業中の会話の続きだったらしくて、脈絡の分からない私は本当に聞いてるだけ。

 よく聞けば面白い話なんだろうけど、途中から聞いても専門用語みたいなのが多すぎてほとんど理解できない。『架空(がくう)線』や『パンタグラフ』『トロリーバス』など、知らない単語がたくさん出てくる。

 聞いているうちに、それが『電車』という鉄道の一種の動力についての説明らしいということがぼんやり分かってきた。

 電車。

 つまり電力で動く車なんだろう。

 今日聞いた話によると電車というのは専用の道をもっている路線バスのようなものらしいから、運用時には予定外行動が少ないはずだ。それなら充電式の動力との相性はいいはずだ。教んハルカちゃんの話によれば電車というのは二五〇〇人もの人を乗せることができるらしいから、きっと大きな動力が必要になるのだろうし、だとするとさぞや充電池も大きなものだったのだろうね……。

 ぼんやりとそんな事を考えているけど、電車というものの形を具体的にイメージできるわけではなくて、なんとなく迂川郷本校舎の体育館ぐらいのものを思い浮かべている。絶対に違うんだろうけど。

 話に乗れないのでご飯が終わって食器を片付けたら手持ち無沙汰になってしまった。

 端末でなにかニュースがないかと確認しながらその場を離れる。

 そうだ! 時間ができたということだから、幹侍郎ちゃんに連絡を……。

 ……いや、昨日の今日だし、まだ止めておこうか。

 そしたらどこか一人になれるところでゲームしたりネットしたりしようかな。ということで、なんの気無しにふらっと屋上に出ることにした。


19:00

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 もう日も暮れているけど寒くはない。涼しくもない。まだちょっと空気中に熱気が残っているぐらいだ。強くない、緩い風が頬を撫でて通り過ぎてゆく。熱気は残っているけど立ち込めてしまわず、居心地は良い。

 日暮れ以降も暑気(しょき)が残っているのは、折瀬ではよっぽど暑い日だけのことだ。

 薄暮(はくぼ)の時間にもまだ熱気の残る東京は、もしかしたら暑い場所なのかもしれない。

 いや、どちらかというと全国的に見たら折瀬が比較的涼しいんだよな……。そもそも折瀬は平地に比べて標高が高い。そのせいで冬は大雪になることもある。

 ふと気がつくと、ハルカちゃんに借りたままになっていた上着をまだ着ている。

 袖がちょっと汚れていて申し訳ない気持ちになった。慌てて確認したら、食べこぼしなんかの大きい汚れはは無いようで、それは本当に良かった。

 もうこれは脱いじゃってもいいな、ということで屋上の物干しに残っていたハンガーに上着を掛ける。朝に掛けたままにしていた上着もまだ残っているから、屋上に上着が二枚。

 並んだ二枚の上着、両方とも自分が持ち込んだことに気がついて呆然と見つめる。

 私のこの迂闊な感じ、なんなんだろうか……。


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