7月29日(金) 16:45 四日目:池袋配給所近傍
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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7月29日(金)
16:45
四日目
池袋配給所近傍
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収録が終わると、また明日と言って清水さんは帰って行った。
よれひーさんとスタッフさんは今日の番組の編集。
晩ごはんの用意は料理のできるスタッフさんたちの持ち回りなので、ゲストという扱いの私達はやらなくて良いことになっている。
そして今日は、ハルカちゃんが編集の作業に呼ばれて行った。
番組内のハルカちゃんの独演会に字幕を付けるのに本人の監修をして欲しいのだそうな。他、情報に間違いがないかの確認もしたとか。
それはそうだ。
喋っただけの言葉の漢字も分からないだろうし、池袋は本当に三位なのかとか、ひとつの電車に二五〇〇人も乗れるのかとかの確認も必要なはずだ。更にはその場でパッとやっていた概算見積もりの計算間違いがあったりしたらその訂正も必要になるだろう。
編集作業にハルカちゃんが参加するということで、ぞっちゃんはそれについて行く。ハルカちゃんが参加できるならぞっちゃんの見学だって構わんだろうという理屈らしい。理屈が通っていることになるらしいんだけど、私にはそこの論理的なつながりが理解できない。
私に理解できない理屈が世間で通用するのはよくあることで、この理屈もそれに属していたらしく、ぞっちゃんの見学は普通に受け入れられていた。
二人が編集作業に参加する一方、私は暇になってしまった。
遊びに行くところもないのでどうしようかなと思っていたら、今日の食事当番の浦和さんに誘われた。
桜さんと一緒に台車を持って今日の配給を取りに行こう、ということだった。
私のそもそもの目的には東京の雰囲気を見て回ることがあるので、これは好都合な誘いだ。普段なら億劫がるところだけど、誘いに乗ることにした。
* * *
配給所は地上一階のわかりやすい場所だ。
台車を使って上り下りをスロープで通れるのは大きい道に限られている。普通にわかりやすいし見て回った時に通った道でもなかったから午前中の下見が役に立ったという感じはしなかったけど、今度は清水さんが居ないので周囲からの好奇の目に晒されていると感じる部分は強い。
「あっ! ストリーマーの佐々也ちゃんですか!?」
一階に降りて地上の高さを歩いている時、斜め後でそんな子供の声がした。
佐々也という名前に聞き覚えはあるけど、私はストリーマーじゃないから違うなと一瞬思ったのだけど、そういえばここ三四日はストリームに出演しているんだった。
もしかして私のことか?
と思って振り向くと、数人の子供が寄り集まってもじもじしている。
子供だよな?
……。
見慣れない色や形状でちょっと認識に戸惑ったのだけど、やっぱり子供だ。
よく見ると手が四本ある子や肌の青い子、身長がすごく小さい子などが居る。それでも子供の集団に見えるのだからなにか外見にとどまらない子供の特徴というのがあるのだろうけど、ちょっと今すぐには分からない。
あまりにも独特な外見なのでなにかの扮装なのかと思ったけど、ここは精巧なコスプレ用品がそんなに簡単に手に入る土地ではないはずだ。だとすれば、この子たちは生まれつきの異形なのだろう。
様子を見ると、声をかけてきたのはとても痩せっぽちで身長の小さい子のようだ……。
いや、身長が小さいというかなにもかも小さい様子で、プロポーションはどちらかといえば子供というより成人男性のもののようだ。もしかしたら子供ではないのか?
「そうだよ、私、佐々也ちゃんだよ」
そう答えて、笑顔を作って一歩踏み出す。
すると、子供たちもお互いにちょっともみ合いながら近寄ってきた。こういうところは子供らしい。例の全体が小さい人も同じようにしているので、プロポーションは成人でも年頃は他の子とやっぱり同じなのだろうという気がする。なにもかも分からない。
質問したい気もするけど、これは初対面ではあまりにも不躾な質問だ。
ある程度まではやむを得ないとはいえ、失礼すぎるのは良くない。
私なんて、その『ある程度』の見極めができないんだから、事前に思いつく失礼にはすべて避けていく必要があるのだ。
清水さんのこともあったし、ここは幾重にも慎重にしないといけない。
だから私は、私から見ると彼らの際立った特徴に見える部分には触れず、自分のことから話し始める。




