……7月29日(木) 14:00 四日目 :抗生教池袋宿所・番組撮影
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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「池袋は二七〇万でしょ? 半分も足りてないじゃんか」
「元にしてる数も計算が雑だから、桁が合ってたら上々だと思うけど。……じゃあ例えば(中略)さっきの計算の通り過ぎる八割の中に一割いたとすると、乗り降りでその倍だからもう一二〇万人追加できることになる。これで二四〇万。荒く計算しただけだから、一割ぐらいは誤差でもいいでしょ?」
「あっ……、はい……」
正直、計算にはやっぱりついて行けてないんだけど、たぶん正しいんだろうという感じはする。というか、こういう条件ひとつでぱっとひねり出された人数計算であることをかなり実感した。
少なくとも今ここで反論できる気はしないし、反論しても別の推計をしない限りあんまり意味がない。
このやりとりでわかったことは、ハルカちゃんの言葉の前提を受け入れるなら、数百万という人数は軽くひねり出せるということだ。計算上そうなら、実際に条件を達成すればその人数になることも疑いはない。
次に疑うとしたらハルカちゃんの前提なわけだけど……。
「その電車っていうのは、二五〇〇人も乗れるものなの? 池袋の人口のだいたい三倍もの人数。外でもひとつの町ぐらいの人数だよね? そもそもそんなに沢山の人が移動する必要があるの?」
これはぞっちゃん。
ぞっちゃんは私と違って、計算の流れに騙されたりせずにきっちり前提を疑っていたわけだ。
「太陽系時代末期の東京の人口はおよそ一〇〇〇万人、首都圏と呼ばれていた東京へ通勤通学が可能とされていた地域の人口がおよそ四五〇〇万人だったの。これはいまで言う関東地方と東京と山梨県と神奈川県を含んだ範囲のことで、この圏内の人が大量に手早く移動するために使われていたのが鉄道なの。そういうスケールの話だから、首都圏の色んな所から集まった人が積もりに積もってひとつの鉄道に二五〇〇人乗ってたんでしょうね」
「四五〇〇万人……。電車に乗ってた可能性のある人間が、いまの日本の人口より多いよ……。太陽系時代はいまより人口が多くて日本の人口も一億人を超えてたって聞いたことあるけど、あれってそういう意味なのか……。あれ? 首都圏だけに日本の人口が半分ぐらいいたってこと?」
「一番多かった時代で日本の総人口一億三〇〇〇万人ぐらいだから、全体の三分の一ぐらいだけど、そのとおり、首都圏に人口が集中してたらしいよ」
「え? 人口が集中〜? そしたらTOXが来ちゃうんじゃないの〜?」
「太陽系時代にはTOXは居なかったから」
「あ、そっか」
ぞっちゃんがパッと思いついたことを口にして、ハルカちゃんがサッと解決。
「……それだけの人口が集中していたせいで、太陽系時代が終わってTOXが来るようになったら真っ先に東京が狙われて壊滅してしまった、ということですね。私も、古代の東京の姿というのをあまり具体的に思い描いたことはなかったんですが、こうして聞いてみるとなかなか凄まじい……。勉強になりました」
私達の間のやり取りが一段落して、ちょっとの隙間ができた時、清水さんが感心したように割り込んできた。
「すいません。あの、佐々也ちゃんの疑問に答えてたらつい……」
「いえいえ、本当に勉強になりましたから」
「いやぁ、ちょっと信じられない話を聞いてしまいましたね。東京って、昔はそんなだったんですね。ちょっとびっくりするような話でした。いまの大宮の人口が二〇万人ぐらいだから、何倍ぐらいだろう?」
これはよれひーさんの軽いまとめ。
つまり、ここでいまの人数の話は一段落ということにしたいのだろう。
確かに白熱しすぎた感じはある。
よれひーさんに話を合わせよう。
「二〇万? 大宮もすごいですね。十万人いたらTOXの落下が気になってくる都市だって聞いたことがあるけど」
「東京の隣だから大宮の人数は例外ではあるんですけどね。でも、いままで自分は地球上で最大の都市に住んでる都会人だと思って調子に乗ってたんですが、この話を聞いてしまうとたいしたことない気がしてきますね……。ええとそうだ、新宿の名前が出たんでした。その話をしたいんですよ。清水さん、新宿の話からお願いします」
よれひーさんの軌道修正。
脱線しすぎだったらしい。わからんことないけど。




