……7月29日(木) 14:00 四日目 :抗生教池袋宿所・番組撮影
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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屋上テラス付きの部屋なんて一等地なんじゃないかと思ったらそういうことだったのかと、ぞっちゃんが大げさに感心している。
私はさっきも聞いて知ってる話だったのでこれは上手に質問できたように思う。
他、発電施設や食糧生産の工場なんかも地下にあるとか、新しい話も聞くことができた。
地下に住むために穴を掘るのは大変でないのかとハルカちゃんが質問。
清水さんの回答は「太陽系時代の地下遺跡がかなり充実しているので、その地下遺跡を探し当てられればそこを整備するのは地上に新しい道をつくるより労力がかからないんです」だとか。
このあたりの話をまとめると、かつての東京は地球上でも有数の規模を誇る都市であり、人口の集積率が高まった結果、高層建築や巨大商業施設が地下にも大きな空間を持っていることが当たり前だった。その高集積都市には地下から地下をつなぐ『地下鉄』という交通機関があり、その停車場は街の発展した地域によく作られていた傾向があったため、地下遺跡を利用して全東京を行き来するのは理にかなっているのだとか。
さらっと説明されたけど、東京というひとつの市街には収まらない広い範囲にそれだけの地下空間や交通網が広がっていたというのはにわかには信じ難い話だ。
「この池袋もそうなんですよ。中央部分の広場は旧池袋駅の地下街です。かなり手が加わってしまって、元の面影は無くなってしまいましたが……」
「池袋にもその地下鉄、というのがあったんですか?」
「あった……らしいです。えーと、資料を出しますね。太陽系時代の記録によると、丸ノ内線、有楽町線、副都心線の三個。他に、山手線、埼京線、湘南新宿線、東武東上線、西武池袋線という地上の交通手段――これは鉄道と呼ぶもので、地下鉄というのは『地下鉄道』の省略形らしいです――も走っていたらしいです」
「え? 地下鉄、じゃなかった、その『鉄道』というのは地上にもあったんですか?」
「資料にはそうだと書いてあります」
清水さんの返事が心許ない。
まあ、見てきて知ってるわけじゃないんだろうから、伝聞なのはどちらかというと誠実の証拠ではある。
「ハルカちゃん、そうなの?」
「うん。私が知ってる鉄道の名前も同じ。山手線と埼京線と湘南新宿ラインがJR東日本で、東武東上線が東武鉄道、西武池袋線が西武鉄道、地下鉄の丸ノ内線、有楽町線、副都心線が東京メトロだね」
「知らない単語がいっぱい出てきたな……」
「私としても知らない、資料にも書いてない名前が出てきましたけど、ハルカさんは太陽系時代の東京にお詳しいんですか?」
ハルカちゃんが滔々と答えてくれたことに、私だけじゃなくて清水さんも驚いている。
「太陽系時代のことならなんにでも詳しいわけではないんですが……、私は太陽系時代のアニメが好きで、その時代のことについて色々と調べているんです。いま言ったのは、鉄道を運営していた鉄道会社の名前です」
「鉄道会社なんてものまであるのか……」
「いやぁ、ハルカちゃんさん、ほんとに詳しいですね。東京の地名にも詳しかったんですよ」
「私は今のことしか知らないので、きっと私より詳しいんでしょうね。鉄道会社というもののことなんて、いま初めて聞きました」
「すいません。私はむしろ今のことはなにも知らないので、普通なら役に立たない知識だとは思いますが、知ってる名前が出てきたのでつい嬉しくて」
言葉の謙虚さとは裏腹に、ハルカちゃんの表情はなんかクールな感じだ。
元々が美少女なので、なんか冷たい反応なだけで絵になる。
「ではハルカさんは、新宿はご存知ですか?」
「名前だけなら……。新宿は太陽系時代の東京の繁華街だったはずです。巨大な歓楽街と文化施設が同居するため猥雑な部分もある街だったと聞きました。あと鉄道関係だと、一時期は地球上で最高の乗降客数を誇っていたとか」
「へぇ、すごいんだねぇ。乗降客っていうことは、電車に乗ったり降りたりした人の数ってこと?」
「うん」
「何人ぐらいか知ってる?」
「えーと、確か一日あたり三五〇万人ほどだったらしいよ」
三五〇万、という数を思い浮かべるとまずお金の三百五十万円が思い浮かんだ。
一人あたり一円集めると三五〇万人でその金額になるなという連想が働くけど、人数としてのイメージに繋がらない。
一年で分割すると、一日あたり約一万人……。一万人なら『多すぎる人間』としてなんとなくギリギリ思い浮かぶ気がするけど、それが一年分。
つまり……、どういうことだこれ。
……え?
「……一日あたり三五〇万人!? 一年じゃなくて?」
「一日だね」




