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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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……7月29日(木) 14:00 四日目 :抗生教池袋宿所・番組撮影

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「じゃあ、清水さんが、佐々也ちゃんさんからの『特徴的な教義はありますか、なにか抗生教という名前と関係あるような』という質問に答えるところから始めましょう。ケンちゃん、キューお願い」


「はい、じゃあいきますよー。さん、にー……」

 いちからは黙って、指差しと手振りで合図。

 私は別にいいのだけど、清水さんに見やすいように自分の斜め後ろでやっているキューをつい眺めてしまう。

 向き直ると、清水さんは特に気にした様子もなくしれっと説明を始めている。

「抗生教というのは、TOXに抗いながら生きるという八千代様の決意の言葉をもとにした名前です。教義ということではないのですが、TOXとの闘争は教団を強く特徴づける一面になっています」

「だ、そうです。どうですか。佐々也ちゃんさん?」

「え? 私?」

 さっきのことがあったので、ここで私が言うことはないと思ってついボケっと聞いてしまっていたけど、私が質問したんだから私に振られるのは当たり前といえば当たり前だった。

 そうか、そうだよな。ここでは私が返事をしないとおかしい。

「私が質問したんだからそりゃそうか。えーと、これまで東京探検をしてきてあまり危険な目には合わなかったのでこんなもんかという気がしていたんですけど、改めて話を聞くとやっぱり戦いのある場所なんだということがわかりました」

「お手本のような回答をありがとうございます」

「すごーい、さーちゃん、優等生みたいだったよ?」

「私は優等生っていう柄じゃあないんだけど……」

「学校の成績はいいのにね」

 ぞっちゃんの言葉に、顔だけで苦笑いしてしまう。

 成績がいい?

 そんなこと無い。

 折瀬の教室の中ではわたしは真ん中ぐらいだ。

 折瀬ではユカちゃんがずば抜けて成績が良く、ゴジがそれを追う感じ。

 私とたまがその次ぐらいで、教室に居る後二人が窓ちゃんとぞっちゃんだ。相手が学年平均ぐらいになると、私もたまも平均よりは高い方になるけど、ゴジ以外は勉強以外の取り柄がある。

 ゴジの取り柄は……だいぶ背が高い方ってぐらいだろうか。

 私にはそういう取り柄もない。

「私は成績以外は全部ダメだからね。成績だけ良くても、それじゃ仕方ない」

「あー。大丈夫大丈夫、お互い様お互い様」

「ぞっちゃんは成績以外はたいてい良いんだから、お互い様じゃないよ」

 私の言葉に、ぞっちゃんは人の悪そうなにやーっという笑顔を見せる。

「え? 馬鹿って言った?」

「私自身にね。学校の成績なんて気にしなくていいよ。だいたい私は学校の成績もそんなに良くはないよ。ユカちゃんの方が成績いいんだから」

「え? ユカちゃんよりさーちゃんの方が勉強できるのに?」

「ユカちゃんの方ができるから成績がいいんだよ」

「でも……、ユカちゃんは勉強でわからないところがあるとさーちゃんに聞くよね?」

 別にユカちゃんに限らない。ゴジもそうだ。

 そういう時、私がユカちゃんに『教えてあげる』ことは無い。

「あれは先生が言ってたことを噛み砕いて繰り返してるだけ」

「そ……そういうもんなの?」

「まぁいいよ別に、いまはそんな話をしてる場合じゃない。東京の話を聞かないと」

「そうだったね」

 ぞっちゃんはなんとなく満足そうな表情をしている。

 私も、ぞっちゃんと話せてちょっと嬉しかったし、場の空気も和らいだ。

 ぞっちゃんはこういうことができる子だ。

 私には無理だ。ぞっちゃんは偉い。

「じゃあ、ここからはお待ちかね、東京について話していきます」


   *   *   *

15:20

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 その後は流れに任せて、清水さんの授業を聞いて色々なことを聞いた。

 東京で人の姿を見かけないのはなぜかというと、基本的に地下に住んでいるからだとか。主要な道路は地下にあるとか。

「なんで地下に住んでるんですか?」

「TOXが上から落ちてくるからです。落ちてきたTOXが地面を貫通して地下に侵入することは事態はまず起こりません」

「え、じゃあ、私達が泊まってる部屋は……」

 さっきも聞いた話だから、悪印象な答えが出てくるわけじゃないことは知っている。

 だから失礼にはならないはず。

 面白い話だったのであえて番組向けに話題に出してみたのだ。ぞっちゃんもそんなことしていたはずだ。

「お客様用の部屋ですから、景色が良いことを優先しているんです。なにしろTOXはいつ来るかわかっていますからTOX襲来の時期には基本的に誰も逗留しませんし、仮に長居している場合でも、お客様用の避難所は別に用意がありますので」

「ああ〜、なるほど〜」

 屋上テラス付きの部屋なんて一等地なんじゃないかと思ったらそういうことだったのかと、ぞっちゃんが大げさに感心している。

 私はさっきも聞いて知ってる話だったのでこれは上手に質問できたように思う。

 他、発電施設や食糧生産の工場なんかも地下にあるとか、新しい話も聞くことができた。

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