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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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……7月29日(木) 14:00 四日目 :抗生教池袋宿所・番組撮影

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「そうですね……。東京では家系というのがあまり成立しません。子供を作れない人というのが一定数居ますので」

「子供を作れない?」

「はい。東京は能力が強い者たちが集まってくる場所ですが、能力が強い者は子供が作れない場合が多いのです。能力が強すぎると、生物の種類として人間から離れてしまうんだと言われています」

「え〜、そんなの聞いたことない〜!」

 私は聞いたことがある。

 厳密には人間から離れてしまうという方でなく、強い能力がある人は妊娠しにくく流産しやすい、という話だ。これは絶対に子供が生まれないとかでなくて、そういうことが起きやすいという程度のようだ。

 なぜ、というのはその話を見かけた時に考えもしなかったけど、人間から離れてしまうからというのは遺伝とか進化とかに関する私の浅い理解に照らせば、少なくとも理屈に反しては居ないように思える。けど、正解だと言い切るための知識も私にはない。

 つまりこの話は聞いたことがあるというだけで詳しいわけではない。かなり微妙な話だから細かな配慮が必要な話になるだろうけど、私には上手く説明できないだろう。

 だから割り込んで話すようなことはなにも無い。

 でも、私が微妙な表情をしていることにぞっちゃんは気がついたらしい。

「あれ? さーちゃんは聞いたことあるの?」

「……何かで読んだことがある、ぐらいだけど……。ただ医療が進歩しているから、あまり気にすることはないようなこともその本には書いてあったよ」

「医療……。そうですね、他所ではそうかも知れません。ところが、東京には良い病院がないものですから……。もちろん深刻な場合には外の医者にかかることもできなくはないんですが、それにはお金がかかりますので」

「ああ……」

 清水さんは淡々と答えてくれたけど、その返事に私は更に暗い気持ちになってしまう。

 医療がないこと、お金がないこと、両方とも単純に事実なのだろうけど、そこから導かれる結論――つまり医療が必要となった住人の運命――はかなり残酷なものだ。

 さらに言えば、医者が必要である場合ならいつでも、妊娠出産だけに関わる話ではないはずだ。そして医療を必要としている人がお金に困っている場合というのは、きっとあるのだろう。というか、少なくないはずだ。

 ここで、よれひーさんが話に割って入ってきてくれた。

「ちょっとシビアな話になりすぎました。チャンネルのカラーに合いませんので、申し訳ないですがここはカットしましょう。清水さんのお話の豪族、ぐらいまで戻りましょうか」

「わかりました」

 よれひーさんの提案を、清水さんがサラッと受け入れてくれる。助かった。


「それでは戻りから。簡単でいいので清水さん、もう一度、豪族の(くだり)の説明からお願いします。どうせ切るので冒頭は好みのタイミングで大丈夫です。さんにーいちキュー」

 よれひーさんから簡易的なキュー。

「えーと、自治を行っている団体はあったのですが、組織としてはもう残っていないんです。そういうタイプの自治団体は有力者の一族支配となってしまうので、言葉を選ばなければ豪族と変わりないのです」

 なんでこんな話してたんだっけ?

 宗教団体と自治組織の違いとはなにか、みたいな話か……。

 それで神様の話をしようとしたところで、抗生教はあまりこだわりがないということになって、だったらなにが違うのかと言ったら宗教でない自治団体は一族支配の……、という流れだったか。

 流れが複雑だし、両者の差を印象づけるなら、やっぱり宗教団体としての信仰対象を思い描くのがいいんじゃないかという気がするんだけど……。

「はい」

 といってハルカちゃんが挙手。

「どうぞ、ハルカちゃんさん。質問ですか?」

「質問です。宗教と言われるとやっぱり神様が気になります。どういう神様を信仰しているのかを聞きたいです」

 彼女個人は信仰に深い興味があるタイプでもないと思うのだけど、私と同じように結局その話が必要だという結論になったのかもしれない。

「そうですね……。あえて言うなら日本の神道と同じです。特に、抗生教では開祖の八千代様を神格として祀っています」

 聞かれた清水さんも、ぱっと答えてしまう。

 本当にこだわりが無いので説明したほうが無難、という結論になったんだろうと思う。

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