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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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……7月29日(木) 14:00 四日目 :抗生教池袋宿所・番組撮影

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十三章 薄暮(はくぼ)赤雲(あかぐも)、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「例えば、いま東京にある道はほぼ(・・)すべて私達が整備したものです。他には輸送用の機材とか組織が充実したりしています」

「ほぼ?」

 いきなり疑問を挟んでしまった。


 自由に聞いていいとは言われているので、まぁいいだろう。

 清水さんも気を悪くした様子はなく、普通に答えてくれる。

「『ほぼ』なのは、最初から道があった場所や住民が通行するだけで道になっている場所なんかも無くはないので、こういう言い方になっています。あえて言い換えるなら、いまの東京域で道路整備を計画的にやっているのは抗生教のみ、という感じになります」

「なぜやっているのですか? 輸送なら儲けようはある気はしますけど、道路整備だと儲かるとかみたいなことも無いと思うんですが」

「抗生教は互助が目的なので、儲けが結果としての目的になることはないんです。なぜ道を整えるかと言えば道が無いと困るからです。本質的には必要だからやっています」

「ははぁ……」

 そう言われると本当に必要かなと反射的に考えてしまうんだけど、具体的に道がない不便を思いつかなくても必要なんだろうなという納得感はある。

 道だしな。

 よく分からなくても絶対不便なはずだ。

「抗生教以外に道を整備する人たちは居ないんですか? 住居や生産も抗生教だけですか?」

「この場所、というか池袋では見つけにくいですが、住居や生産は抗生教の管理下に()るものだけでなくて、東京の住人たちも普通にやっていますよ。えーと、建物でしたら赤羽の神社近辺のバラックなんかはご覧になりませんでしたか? 一方、道は私達だけですね。東京の状況では継続的になにかを行うことができる組織そのものが他に無いので、継続的な整備が必要になる道の維持は私達だけがやっているという感じです」

 いいですね、という感じで清水さんが見回す。

 こういう時、本当の学校の対面授業だと、私は目礼で返すことにしている。私が他のみんなを代表して返事をするわけじゃないけど、先生だって様子を見ていたら反応を読み取る印が必要だと思うからだ。

「では抗生教についてはこれぐらいにして、次は東京の……」

 今回も同じように目礼してしまったけど、そういえば番組だからもっと分かりやすく答えたほうがいいのかな、と考えていたら清水さんが次に進んでいた。

 でもそれをぞっちゃんが遮る。

「せんせー! あんまり宗教っていう感じがしないです〜。神様の話とかはないんですか〜?」

 これはぞっちゃん。

「私達は、自分たちが宗教団体であることにこだわりはありません。寄り集まるための名目、ぐらいの認識でいます」

「それはやっぱり宗教団体と言うより、自治組織とかなんじゃ……」

 前にやちよちゃんと似たような話をしたときと同じ感想が出てしまう。

「歴史的には私達以外の自称『自治組織』というのが出てくるときもあるんですが、あんまり長続きしないんです。せいぜい三世代百年ぐらいで。だから私達の組織が長続きしているのは、寄り集まる名目が自治でなく宗教だからなのかもしれません」

「百年はじゅうぶん長持ちしているのでは……」

 ハルカちゃんがツッコんでいる。

 そこはポイントではないと思うが……。でも、普通なら宗教のほうが長持ちなのかな?

 あ、いや、世界の色々な宗教のことを考えると、たしかに宗教組織は長持ちするか……。

「抗生教は東京壊滅以来、五〇〇〇年間存続していますので、自称『自治組織』の継続期間はそれに比べるとどうしても短いんです。加えて抗生教以外のそういった集団は名前こそ『自治組織』ですけど、どうしても有力者の一族支配になってしまいますので言葉を選ばなければ豪族という感じの存在なんです」

「有力者とか歴史のある家柄ということなら東京の外にも居ますよ。地域社会と折り合いながら存在していますけど、東京ではそうではない?」

 たとえば窓ちゃんの真宮さんの家とか。

 具体例は出さないけど。

「そうですね……。東京では家系というのがあまり成立しません。子供を作れない人というのが一定数居ますので」


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