……7月29日(木) 14:00 四日目 :抗生教池袋宿所・番組撮影
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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今日の午後は座学の撮影というのは事前に聞いていた。
要約すると、この番組では間違いを言うことこそ私の存在意義!
例の棒の話とかで、いくらか頓珍漢なことを言うのも私達の仕事だということである。ただただ空気が読めてないというだけじゃないのだ。
「はいじゃあ、きりーつ! きをつけ! れい! ちゃくせき! はい、みなさん席につきましたか?」
「すいませ〜ん、いままだ椅子を用意しているところで〜す」
よれひーさんの号令にぞっちゃんが元気に返事をする。
この辺は事前に台本の用意されたコントだ。
しかもついさっきまで練習したので、もう万全である。コントをしながらみんなで部屋の端に用意してあったデスク付きの折りたたみ椅子を運ぶ。
「えっ、準備が悪いなぁ。はいはい、先生がお待ちですから、早く準備してくださいよー」
「私たちが生徒で、清水さんが先生なのはわかりました。でも、よれひーさんは何役ですか? 生徒でも教師でもないのにこの場に居る……。地縛霊とかですか?」
よれひーさんの煽りにハルカちゃんが冷静にツッコミを入れる。これも台本。
「僕も先生から教わるから生徒役です。でも進行役もやりますので、……つまり学級委員?」
「よれひーさんも学生なら、椅子を並べる仕事があるのでは?」
「え〜っ! そうだよよれひーくん! 自分で並べてよね!」
ツッコミが私。ぞっちゃんが文句を言いながらよれひーさんに椅子を渡す係。
「えっ? あっ、これはすいません。みなさん、あの、私はお水をお持ちしますね」
「え〜っ! 私は紅茶がいいな〜」
「私は野菜ジュース」
「……じゃあ、私はとりあえずビールでお願いします」
「学生だから、お酒は駄目ですよー!」
と、よれひーさんが画面外から注意をして、ハルカちゃんが舌を出して反省、みたいなポーズをする。
「ハルカちゃん、ビール好きなの?」
私が問いかけると、ハルカちゃんが首を振る。
「……台本」
「えっ、言っちゃうんだ?」
私達の会話をぞっちゃんの言葉が締めてくれる。
台本をバラしてぞっちゃんがツッコむところまでが台本だ。
せっかくだから、私もひところ挟んでおく。
「そうです、私達の発言は最初からここまで全部台本です。でも、台本ありのコントってやったこと無いから楽しい」
「全部じゃないよ? さっきの指し棒のところは台本じゃないからね?」
「くっ。滑ったのを誤魔化そうとしたのに……」
「大丈夫大丈夫。知ってるようで間違ってるのもさーちゃんの持ち味だから」
「……ぞっちゃん、手厳しい」
「ははは〜」
ぞっちゃんがごまかし笑いをしたとことでよれひーさんが入ってきた。
「あっ、もういいですか? いまのところは台本じゃないですからね? いや、レザミオちゃんはみんな面白いよね。これは編集で台本のところにテロップとか入れないと……。あっ、お水配り終わりましたんで、先生もどうぞ。じゃあもう一回、きりーつ! きをつけ! れい! ちゃくせき! よろしくお願いしまーす」
「「「よろしくおねがいしますーす!」」」
「ではまず、先生の自己紹介というか、抗生教について、主に東京で抗生教がどういう役割なのかを教えてもらう授業をしてもらいましょう。あ、そうそう、このカリキュラムではなにを話していただくのか清水さんと番組スタッフは打ち合わせをしていますが、生徒役のレザミオちゃんたちには台本がありません」
14:15
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「えー、ごほん。改めまして、皆さんこんにちは。抗生教広報の清水です」
そう言って、清水さんがカメラに向かって浅く礼。
その後、三角メガネのツルを触って掛け直している。
「こんにちわー」という私達の返事を待ってから、言葉を続ける。
「それでまず抗生教の活動を簡単に説明します。抗生教の主な活動は、東京在住者たちの相互扶助となっています。より具体的に言うと、必要物資の生産や分配、居住環境や輸送交通環境の整備というのが日々の活動の中心です」
「すご〜い!」
「物資の生産や住居というのは塚に居ると実感できますけど、輸送交通環境の整備というのはどういうことですか?」
ぞっちゃんとハルカちゃん。
「例えば、いま東京にある道はほぼすべて私達が整備したものです。他には輸送用の機材とか組織が充実したりしています」
「ほぼ?」
いきなり疑問を挟んでしまった。




