7月29日(木) 14:00 四日目 :抗生教池袋宿所・番組撮影
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十三章 薄暮の赤雲、独り屋上。呼ばれてなくても現れる。
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7月29日(木)
14:00
四日目
抗生教池袋宿所
番組撮影
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┃ 今日はお勉強配信
┃ ☆よれひーちゃんねる☆
┃ 教えて清水先生! レザミ・オリセと一緒に勉強。東京ってどんなところ?
「こんにちよろれいひー。はいこんにちわよれひーです。本日はね、いま僕達がお世話になっている抗生教の清水さんをお呼びして、東京のことについてお勉強をしたいと思います。抗生教には宿のことを含めて色々お世話になっていますが、せっかくだから東京のことを学校形式で色々教えてもらうおうと、そんな感じの番組になります。レザミ・オリセちゃんたちもそのつもりでお願いしますね」
「「「はーい」」」
ここであまり引っかかるのも良くないということで、はーいの練習をしたので、よく返事が合っている。
「ということで、ご紹介しましょう! 先生をやってくれるのは抗生教の広報係、清水さんです!」
「こんにちわ。清水です。今日はよろしくおねがいします」
清水さんは午前中と同じびしっとしたグレーのスーツ上下と、さっきまで掛けていなかった三角メガネ。
「「「こんにちわー!」」」
「清水さんは番組の方には初登場ですね。私達とは昨日初対面で、抗生教に対して私達の身元の保証をしてもらったり、この部屋まで連れてきてくれたりと色々とお世話になっています。改めて、よろしくおねがいします」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
ここでぞっちゃんが台本にない絡みを始める。
「清水さん、凄い眼鏡かけてますね……。午前中は掛けてなかったと思いますけど〜」
「今回は先生役ですし、配信を拝見するとキャラの強い生徒さんたちなので、キャラ負けしないようにしようと思いまして……。こういうのも持ってますよ」
そう言いながら、清水さんは手元の棒をさーっと引き伸ばして見せる。
「わー。先生って感じする!」
「するかな? 私、学校の先生があの棒を使ってるの見たことないけど……」
「え? でもマンガとかドラマとかコントとかだと使ってるよ? うちの先生が使わないだけで、他所では使ってるんじゃないかと思ってるんだけど……」
「その可能性はあるかもね」
私とぞっちゃんのくだらないやり取りももちろんカメラに収められている。
「え? この棒ですか? 言っておきますけど私は使いますよ? 物理的にサイズの大きな説明書きを指し示しながら説明するのに、この棒は都合が良いんです。プレゼンテーションソフトで言うところのマウスカーソルみたいなもんですね」
ひとくさり終わると清水さんが教えてくれた。
「なるほど……。学校の先生は板書をしてくれるから逆に要らないのか……」
つまり私のツッコミは滑ったってことだ。痛恨である。
仕方がないので重々しく頷く。
「どうしたのさーちゃん。元気ないけど、お腹痛い?」
「元気無くはないし、お腹も痛くないです」
「だったらいいけど、なんだか苦しそうな顔してたから……」
重々しい表情だったんだけど、ぞっちゃんには苦しそうに見えたか……。
「世の中には私の知らないことが多いなと、その棒についての認識を改めていたところです」
* * *
予定通りの午後の撮影。
番組のコンセプトはこんな感じになります、と事前に教えてもらっている。
今日の午後は座学の撮影というのは事前に聞いていた。
私と清水さんが連れ立って帰ってきてから、最後の打ち合わせとして清水さんとよれひーさんが内容の最終打ち合わせをする間、私達は冒頭の挨拶と開始までのコントの練習をしていた。
清水さんとスタッフの間の打ち合わせには参加しないように要請されたので、手が開いたからである。
「レザミオちゃんはみなさん分かりが悪いということが無いし、だとしたら視聴者と一緒のタイミングで清水先生に教えてもらって、自由質問をしてもらう方が撮れ高を作れますから。撮れ高無視で本当の教養番組を作ろうとしても私には無理ですし、自分のチャンネルに置いておく意味もありません。それに、知識だけが主体の番組になると出演者にスポットが当たらなくなるので、せっかくのレザミオちゃんに出演してもらう甲斐も無くなっちゃいますので」
だそうだ。
要約すると、この番組では間違いを言うことこそ私の存在意義!
例の棒の話とかで、いくらか頓珍漢なことを言うのも私達の仕事だということである。ただただ空気が読めてないというだけじゃないのだ。
強がりじゃないんだぞ!




