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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第一章 宙の光に星は無し
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6月20日(月) 18:30

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第一章 宙の光に星は無し


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6月20日(月)

     18:30

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 自室で紙の本を読んでいると、階下に居る母から声がかかった。

佐々也(ささや)! 今日は神指(こうざし)さんのところ見に行ってあげてねー!」

「あーい」

 没頭していてまったく気がつかなかったけど、いつの間にか部屋の中はかなり暗くなっていた。窓の外を見ると夕焼けの時間帯。本に夢中になっていたけど、あと少ししたら光が足りなくなって、電灯をつけていただろうと思う。

 幼馴染の 神指(こうざし) 護治郎(ごじろう)――私はゴジと呼んでいるんだけど――の様子を見に行くのは流石に私の役目だと思っているので、これは母に使いを命じられたというより、上の空になりやすい私に注意を促してくれたという感じの声掛けだ。

 外に出るので念の為自分の格好を確認すると、焦げ茶色のTシャツにアイボリーのペインターパンツといういつもの格好。いつものとは言ったけど、焦げ茶、柿色、臙脂、それからもっとオーソドックスな白などそれなりにいろんな色のTシャツを持っていて、いつもこのTシャツを着ているというわけではない。ただまぁ、公平に言ってTシャツを着ていることは多い。楽だから。

 今日は焦げ茶。

 胸の中央に大きく小さなお子さんにもおなじみのチョコの名前が書いてあって、お気に入りのTシャツだ。

 格好がいつもと同じなら確認する必要もないと思うかもしれないけどそうではなく、脱げちゃってるなんてこともないというのを確認している。私はほとんど身なりに構わない方だけど、流石に服が脱げたまま出歩いているとなるとバツが悪い。でもいまはちゃんと服を着ているからこのまま出掛けても平気だ。

 そんなこんなでとんとんと階段を降りると、母が玄関先に顔を出して、持ち手のあるビニール袋に入った保存容器を手渡してきた。

「煮物作ったから、持っていってあげてね」

「うん。……なんの煮物?」

「ふきと厚揚げよ」

「おー」

 私はふきの味って全体的にピンとこないんだけど、甘辛い味付けとふきの爽やかな苦味が厚揚げにしみていて美味しいからこの煮物は好きだ。ゴジの様子を見て帰ったら晩御飯で食べられるんだろう。

 玄関を出て電動スクーターに乗ろうとしたら、スクーターのバッテリーが切れていた。

 よく見るとスクーター用のスタンドに置いてあるのにマウントされていない。

「おかーさーん! スクーターの充電切れてる!」

「えっ? 私かなぁ?」

「さっき買い物行くとき乗るって言ってたでしょ」

「私かぁ……」

「マウントしないと危ないんだよ。急に走り出しちゃうかもしれないし」

 母は電動スクーターのマウントをなぜかよく忘れる。しかもバッテリーが切れているということは、ただマウントしてないだけじゃなくて電源オンのままで完全停止以上の電力を使っていたのだろう。

 ん? 満充電三〇分で連続走行六時間なはずだったな……。

「チェーン掛けてるから平気よ」

「いや……」

 そういうことではなく、スタンドにマウントしたら連動して電源オフ状態となるから、電源停止の目安として必ずマウントするよう心がけてほしいと言いたかったんだけど……。改めて考えてみると、今日の午後に買い物に行った母が帰ってきてから充電を忘れてたからって、いま充電が切れてるわけがないんだよな……。

 これは充電を忘れてたのは昨日の私もおんなじで、お母さんはバッテリー切れギリギリのスクーターで行って帰って来れただけ運が良かった感じかもしれない。買い物の後にマウントを忘れてたことには変わらないけど、一方的にお母さんが悪いというわけではなくてお互い様だこれは。

 いや、どちらかというと七対三で私のほうが悪いぐらいの感じだよ。注意しにくくなっちゃったな……。

「……仕方ないから歩いて行ってくる」

「はーい」

 気まずいのをなんとなくごまかしながらそんな事を言い残して、電動スクーターを充電スタンドにしっかりマウントしてから家を出た。


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